業務改善助成金について耳にしたことはあるものの、どのような制度か詳しく知らない企業も多いでしょう。業務改善助成金は、中小企業を対象とした生産性向上を支援する助成金制度です。業務改善助成金には、自社の労働環境改善にかかる経済的負担を減らせるメリットがあります。
今回は業務改善助成金について、対象事業者・助成金額などをわかりやすく解説します。本記事を読むことで、業務改善助成金について詳しく理解でき、スムーズに申請手続きができるようになります。業務改善助成金を活用し、自社の生産性向上・労働環境改善を図りましょう。
自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
目次
業務改善助成金とは?
業務改善助成金とは、企業が従業員の労働環境改善や生産性向上に向けた取り組みを行う際に国から支援を受けられる助成金制度です。業務改善助成金を活用すれば、テレワークシステムの導入やAI・RPAの活用、人材育成などさまざまな業務改善に必要な投資をしやすくなります。
対象は中小企業で、常時雇用する従業員数が一定数以下の企業が該当します。生産性向上のために設備投資を行う企業が支援の対象です。
助成金を受けるためには生産性向上に向けた設備投資に加えて、事業内最低賃金を一定額以上引き上げる必要があります。申請時には計画書の提出、取り組み完了時には実績報告が必要です。
審査を経て、取り組みに要した費用の一部が助成金として支給されます。業務改善助成金は、企業が従業員の働き方改革を効果的に進めながら生産性の向上も図れる制度です。
業務改善助成金の対象事業者
業務改善助成金を受給できる対象事業者は、中小企業や一定の従業員数以下の企業です。具体的には以下の条件が指定されています。
なお、上記で記載されている中小企業・小規模事業者は以下に該当する事業者です。
業種 | 資本金または出資額 | 常時使用する労働者 | |
小売業 | 小売業、飲食店など | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 物品賃貸業、宿泊業、医療、福祉、複合サービス事業など | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他業種 | 農業、林業、漁業、建設業、製造業、運輸業、金融業など | 3億円以下 | 300人以下 |
企業規模によって助成金の支給要件が異なるため、上記の対象基準を事前に確認しておきましょう。
特例事業者の認定条件
特例事業者とは、前述の対象条件に加えて特定の条件を満たした場合に特例的な拡充が受けられる事業者です。具体的には、助成上限額・助成率・助成対象経費の拡大措置を受けられます。特例事業者の認定条件は、以下の通りです。
- 申請事業場の事業内最低賃金が950円未満
- 新型コロナウイルス感染症の影響により、売上高や生産量などの事業活動を示す指標の直近3か月間の月平均値が、前年・前々年または3年前同期に比べて15%以上減少している
- 原材料費の高騰など社会的・経済的慣行の変化などの外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1月の利益率(売上高総利益率または売上高営業利益率)が前年同期に比べて3%ポイント以上低下している
上記の①を満たした場合は「助成上限額の拡大」措置が受けられ、②・③を満たした場合は「助成上限額の拡大」に加えて、「助成対象経費の拡大」措置も受けられます。
業務改善助成金の助成上限額・助成率
業務改善助成金には、助成対象経費の上限額・助成率が設定されています。助成対象経費の上限額・助成率は申請コース・対象事業者の規模によって異なるため、適用される助成金の内容を確認する必要があります。業務改善助成金における助成対象経費の上限額・助成率は、以下の通りです。
【業務改善助成金の助成上限額】
コース区分 | 事業場内最低賃金の引き上げ額 | 引き上げる労働者数 | 助成上限額 | |
事業場規模30人以上の事業者 | 事業場規模30人未満の事業者 | |||
30円コース | 30円以上 | 1人 | 30万円 | 60万円 |
2〜3人 | 50万円 | 90万円 | ||
4〜6人 | 70万円 | 100万円 | ||
7人以上 | 100万円 | 120万円 | ||
※10人以上 | 120万円 | 130万円 | ||
45円コース | 45円以上 | 1人 | 45万円 | 80万円 |
2〜3人 | 70万円 | 110万円 | ||
4〜6人 | 100万円 | 140万円 | ||
7人以上 | 150万円 | 160万円 | ||
※10人以上 | 180万円 | 180万円 | ||
60円コース | 60円以上 | 1人 | 60万円 | 110万円 |
2〜3人 | 90万円 | 160万円 | ||
4〜6人 | 150万円 | 190万円 | ||
7人以上 | 230万円 | 230万円 | ||
※10人以上 | 300万円 | 300万円 | ||
90円コース | 90円以上 | 1人 | 90万円 | 170万円 |
2〜3人 | 150万円 | 240万円 | ||
4〜6人 | 270万円 | 290万円 | ||
7人以上 | 450万円 | 450万円 | ||
※10人以上 | 600万円 | 600万円 |
※10人以上の上限額区分は「特例事業者」が対象
【業務改善助成金の助成率】
事業内最低賃金 | 900円未満 | 900円以上950万円未満 | 950円以上 |
助成率 | 9/10 | 4/5(9/10) | 3/4(4/5) |
※()生産性要件に該当した場合
助成上限額とは、1事業者あたりの助成金額の上限です。例えば30円コースで事業内最低賃金を引き上げる労働者数が2〜3人の場合、最大で90万円を助成金として受け取れます。
一方、助成率とは助成対象経費に対して実際に助成される割合です。事業内最低賃金が900円未満であれば、対象経費の9/10が助成されます。
事業者によって上限額と助成率が異なるため、支給額を正確に把握するためには具体的な条件を確認する必要があります。適用される助成金の上限額・助成率を踏まえて、実際にどの程度の助成が受けられるのかを確認し、事業計画に反映させることが重要です。
業務改善助成金の対象経費
業務改善助成金では、従業員の労働環境改善・生産性向上に資する取り組みに要した経費が助成の対象となります。具体的に対象となる経費の範囲は、以下の通りです。
助成対象経費 | 一般事業者 | 特例事業者 | 助成対象経費の例 |
生産性向上に資する設備投資など | 〇 | 〇 | (設備投資) ・POSレジシステム導入による在庫管理の短縮 ・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮 (経営コンサルティング) ・専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上 (その他) ・店舗改装による配膳時間の短縮 |
生産性向上に資する設備のうち、 ・定員7人以上または車両本体価格200万円以上の乗用自動車や貨物自動車 ・PC、スマホ、タブレットなどの端末と周辺機器の新規導入 | × | 〇 | |
「関連する経費」 (広告宣伝費、汎用事務機器、事務室の拡大、机・椅子の増設など) | × | 〇 | (デリバリーを行っている飲食店が3輪バイクを導入した場合における)デリバリーサービスを周知するチラシ代など |
業務効率化につながる最新のIT投資からコンサルティング費用まで、生産性向上に関わる幅広い取り組みに要する経費が対象です。生産性向上に関係のない単なる備品の購入費用・人件費・既存設備の修理費用などは、助成対象外となる場合があります。
令和5年から業務改善助成金が拡充され使いやすくなっている
令和5年から業務改善助成金の制度が大幅に拡充され、中小企業がより使いやすくなりました。業務改善助成金は政府が推進する「課題解決型支援」の一環として、企業の生産性向上と従業員の働き方改革を後押しするための施策です。主な拡充点としては、以下の3点が挙げられます。
- 対象事業者の拡大
- 賃金引き上げ後の申請が可能
従来は、事業内最低賃金と地域別最低賃金の差額が「30円以内」であることが対象条件でした。しかし、令和5年からは「50円以内」と対象範囲が広がっています。
また、事業場規模が50人未満の場合は賃金引き上げ後に申請が可能となりました。従来は賃金引き上げ計画・事業実施計画の2つを事前に提出しなければなりませんでしたが、業務改善助成金の対象が拡大し申請手続きも柔軟となったため、多くの事業者が利用できるようになっています。
業務改善助成金を申請する方法・流れ
業務改善助成金を申請する方法・流れは、以下の5つです。
業務改善助成金を申請する際は、上記の流れを参考にしてください。
申請書など必要書類の提出
まず、業務改善助成金の交付申請を行います。申請には企業概要や補助事業の内容を記した交付申請書の他、事業計画書など一定の必要書類を提出しなければなりません。
申請書など提出が必要な書類は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。必要書類の提出先は、事業所所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部(室)です。
審査〜交付決定
提出された書類は、労働局で審査されます。審査では、事業計画が「現実的であるか」「助成要件を満たしているか」などが確認されます。
書類の不備があれば労働局から修正を求められる場合もあるため、迅速に対応しましょう。無事審査を通過すると、企業に対して助成金の交付決定が行われます。交付申請から交付決定まで約1か月かかります。
補助対象事業の実施
交付決定を受けた企業は、事業計画に基づき業務改善の取り組み(設備投資・事業内最低賃金の引き上げ)を完了予定期日までに実施していきます。事業実施時に、事業計画の変更・中止・遅延が発生する場合は以下の書類提出が必要です。
事業実施状況 | 提出書類 |
事業計画を変更する場合 | 事業計画変更申請書 |
事業計画を中止する場合 | 事業廃止承認申請書 |
事業完了が遅れる場合 | 事業完了予定期日変更報告書 |
上記の申請・報告書も、厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。
事業実績報告書・支給申請書の提出
補助対象事業が完了した後、企業は事業実績報告書・支給申請書を提出します。実績報告書では、事業の達成状況や成果を報告します。
支給申請書は実際に要した経費の内訳を記載し、助成金の支給額を申請する書類であり、経費の裏付け資料も合わせて提出が必要です。
交付額決定および助成金の振り込み
事業実績と経費内容について再度審査され、交付すべき確定助成金額が決定されます。企業は、申請内容に応じた助成金を、指定口座に振り込まれる形で受け取ります。事業実績報告書・支給申請書の審査は、提出から原則20日以内に行われる流れです。
業務改善助成金の事業完了期限
業務改善助成金では、申請した補助事業の実施期間に一定の期限が設けられています。「事業完了期限」までに計画した業務改善の取り組みを完了させ、事業実績の報告を行う必要があります。なお、事業完了期限の定義は以下いずれかの遅い日です。
- 導入機器などの納品日
- 導入機器などの支払完了日(振込日。クレジットカードなどの場合は口座の引き落とし日)
- 賃金引上げ日(就業規則などの改正日)
令和6年分の業務改善助成金に関しては、交付決定の属する年の1月31日と設定されています。よって、導入機器などの納品・支払や賃金引き上げはいずれも1月31日までに実施する必要があるため注意が必要です。
ただし、やむを得ない事情がある場合は申請書を提出し、期限を3月31日まで延長できる可能性があります。事業完了期限に間に合わない場合は、管轄の労働局雇用環境・均等部(室)に相談しましょう。
業務改善助成金を申請する際に注意すべきこと
業務改善助成金の申請にあたっては、以下の注意点があります。
- 申請締切日の前に募集が終了するケースがある
- 交付が正式に決定される前の設備投資は助成対象外
- 地域別最低賃金の発行日前日までに賃金引き上げを実施する
手続きを確実に進めるためにも上記の点を事前に確認し、漏れのないよう対応しましょう。
申請締切日の前に募集が終了するケースがある
業務改善助成金は申請締切日の前に予算を上回る申請があると、募集が早期に終了するケースがあります。よって、申請締切日前にできるだけ早めの申請が賢明です。
なお、令和6年分の締切日は令和6年12月27日までとなっています。最新の募集状況は厚生労働省のホームページなどで確認し、時期を逸しないよう気をつけましょう。
交付が正式に決定される前の設備投資は助成対象外
申請後、交付決定を受ける前に設備投資などを行ってしまうと経費は助成対象外となってしまいます。基本的に助成金の申請手続きを行った上で、交付決定通知を受けてから設備投資を実施する必要があります。
助成金交付が正式に決定されてから、対象事業に着手しましょう。なお、過去に助成金支給を受けた企業であっても、要件を満たせば再度申請が可能です。
地域別最低賃金の発行日前日までに賃金引き上げを実施する
地域別最低賃金の改定時に事業内最低賃金を引き上げる場合、発効日前日までに賃金の引き上げが必要です。例えば、新しい地域別最低賃金が4月1日に発効となった場合、3月31日までに賃上げを実施する必要があります。
発行日以降に引き上げを行うと助成の対象とはなりません。地域別最低賃金の改定時には、賃金引き上げの実施時期に注意が必要です。
まとめ
業務改善助成金は、企業の生産性向上と従業員の働き方改革を後押しする国の支援制度です。中小企業を対象に、生産性向上に必要な設備投資に要した経費の一部が助成されます。
申請手続きでは事前に申請要件を確認し、申請書・事業計画書を提出します。審査を経て交付が決定すれば、対象事業に着手可能です。完了後は実績報告を行い、確定した助成金額が支給されます。
近年、制度が拡充されて対象要件が広くなるなど多くの企業が業務改善助成金を利用しやすくなっています。一方で募集期間・賃金引き上げ時期などの注意点もあり、漏れのないよう慎重な手続きが必要です。業務改善助成金を有効活用し、自社の生産性向上・労働環境改善を図りましょう。
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自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
引用:業務改善助成金|厚生労働省