地域未来投資促進税制は、経済産業省が提供する税制優遇措置です。しかし、具体的にどのような措置が受けられるか詳しく知らない企業も多いでしょう。
地域未来投資促進税制では税制優遇に加えて、日本政策金融公庫による融資での優遇措置や事業における規制緩和などの措置も受けられます。地域未来投資促進税制を活用すれば、自社の資金だけではまかなえない大規模な設備投資も可能です。
今回は、地域未来投資促進税制について支援内容・要件・申請手順などをわかりやすく解説します。本記事を読めば、地域未来投資促進税制を詳しく理解してスムーズに申請できます。地域未来投資促進税制を活用し、新規事業参入・売上拡大などの成果につなげましょう。
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目次
地域未来投資促進税制とは地域経済牽引事業の設備投資に対する税制優遇措置
地域未来投資促進税制は、地域の特性を生かした事業を行う企業に対して設備投資を後押しする税制優遇措置です。具体的には、地域経済牽引事業として認定された企業が新たな設備投資を行う際に法人税の軽減などの恩恵を受けられます。企業は投資コストを抑えつつ、地域の強みを活かした事業展開が可能です。
地域未来投資促進税制の狙いは、地域の中核となる企業の成長を促して雇用創出や関連産業の発展につなげることです。結果として地域全体の経済基盤が強化され、持続可能な発展が期待できます。
地域未来投資促進税制を利用するメリット
地域未来投資促進税制を利用する以下の主な3つのメリットについて詳しく解説します。
地域未来投資促進税制を利用すれば企業は設備投資を行いやすくなり、地域の発展に寄与しつつ自社の成長も促進できます。
法人税の特別償却・税額控除などの税制優遇を受けられる
地域未来投資促進税制の最大の魅力は、法人税に関する優遇措置です。制度を利用する企業は、新規に取得した設備などに対して特別償却または税額控除を受けられます。
特別償却では設備投資額の最大50%を初年に償却できるため、課税所得の大幅な圧縮が可能です。一方、税額控除の場合は、投資額の最大5%を法人税額から直接控除できます。企業の税負担が軽減され、投資資金の確保や事業拡大に向けた資金繰りが改善できる点がメリットです。
地域経済を活性化する事業への幅広い支援を受けられる
地域未来投資促進税制は、地域経済を活性化する事業への幅広い支援を受けられる点もメリットです。認定を受けた事業に対しては税制優遇だけでなく、低利融資などの金融支援を優先的に受けられる制度も用意されています。
さらに、規制の特例措置も用意されており、通常では難しい事業展開も可能になる場合があります。例えば、工場立地に関する緑地面積率の緩和など事業の円滑な実施を後押しする措置が用意されている点が特徴です。
大規模な設備投資を行える
地域未来投資促進税制の活用により、企業は通常よりも大規模な設備投資を実現しやすくなります。具体的には、機械装置や建物に対する多額の投資であっても、税制優遇によって負担が軽減されます。
例えば、数億円規模の最新鋭の生産設備を導入する場合、特別償却や税額控除によって初期投資の負担が大幅に軽減されます。経済的な負担を抑えながら、企業は最新技術を取り入れた効率的な生産体制を構築可能です。
地域未来投資促進税制の支援内容
地域未来投資促進税制の支援内容は、大きく以下の4種類に分けられます。
税制優遇だけでなく、金融支援・規制緩和・各種予算事業における優遇措置まで幅広い支援内容が用意されています。以下、各支援内容について詳しく解説します。
税制による支援措置
地域未来投資促進税制における税制支援は、企業の設備投資をバックアップする中核的な措置です。主に法人税と固定資産税・不動産取得税に関する優遇を提供しています。法人税については、対象設備に応じて以下の特別償却または税額控除が適用されます。
対象設備 | 特別償却 | 税額控除 |
機械装置・器具備品 | 40% | 4% |
機械装置・器具備品で上乗せ要件を満たした場合(A・B) | 50% | 5% |
機械装置・器具備品で上乗せ要件を満たした場合(C) | 50% | 6% |
建物・附属設備・構築物 | 20% | 2% |
特別償却では、機械装置の場合、取得価額の40%(建物は20%)を初年に償却可能です。一方、税額控除では取得価額の4%(建物は2%)を法人税額から直接控除できます。機械装置・器具備品で上乗せ要件を満たした場合は、特別償却が50%・税額控除が5%となります。
固定資産税・不動産取得税に関しては、事業に必要な土地・建物に対して課税免除または不均一課税を受けられる場合があります。詳細な要件・適用期限は、各都道府県・市町村に問い合わせましょう。
金融による支援措置
地域未来投資促進税制の金融支援では、以下4種類の措置が提供されています。
支援措置 | 概要 |
日本政策金融公庫からの固定金利での融資 | 地域経済牽引事業に必要な資金について、日本政策金融公庫から固定金利での融資を受けられる。 |
日本政策金融公庫による海外展開支援 | 地域経済牽引事業における海外事業展開について、日本政策金融公庫から以下の支援を受けられる。 〇現地金融機関からの借入に対して日本政策金融が信用状を発行。 〇日本政策金融公庫が海外子会社に直接貸付けを実施。 |
信用保証協会による債務保証 | 〇金融機関からの借入れの際に、通常の保証限度額とは別枠で信用保証協会による保証を受けられる。 〇M&Aの事業承継に伴う資産・株式の必要資金を金融機関から借り入れる場合、経営者保証がなくても信用保証協会による保証を受けられる。 |
その他の金融による支援措置 | 〇資本金が3億円を超える株式会社でも、中小企業投資育成株式会社からの出資を受けられる。 〇地域経済牽引事業の必要資金について、食品等流通合理化促進機構による保証やあっせんを受けられる。 |
多様な金融支援措置により、企業は必要な資金を適切なタイミングで調達し、地域経済の発展に寄与する事業を円滑に推進できます。
規制の特例措置
地域未来投資促進税制における規制の特例措置は、企業が事業を展開する上での障壁を取り除き、スムーズな事業運営を可能にする重要な支援策です。規制の特例措置により、通常では困難な事業展開や時間のかかる手続きの簡素化が実現します。
一例として、工場立地法の特例があります。特例では工場の緑地面積率の要件が緩和されるため、より効率的な土地利用が可能となります。企業は限られた用地を最大限に活用し、生産能力の拡大や新規事業の展開を図れる点がメリットです。
各種予算事業における加点措置・優遇措置
地域未来投資促進税制では、認定を受けた事業者に対して各種の政府予算事業で加点措置や優遇措置が設けられています。具体的には、以下の事業を申請する際に加点・優遇措置を受けられます。
- IT導入補助金
- ものづくり補助金
- 中小企業等事業再構築促進事業
- 省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金
認定事業者は上記補助金の獲得確率が高まり、新たな設備投資や技術開発に必要な資金を得やすくなります。
地域未来投資促進税制の対象となる資産
地域未来投資促進税制は地域経済の活性化に貢献する設備投資を促進するため、幅広い資産を対象としています。対象資産は大きく分けて、以下の3種類です。
上記の資産は、地域経済牽引事業に直接使用される必要があります。また、上記資産の内、事業で使用されていないものが対象です。
地域未来投資促進税制の申請要件
地域未来投資促進税制に申請するためには、以下の要件を満たす必要があります。
地域未来投資促進税制を申請する場合は、上記要件を満たしているか確認しましょう。
基本計画に適合する地域経済牽引事業計画の策定している
地域未来投資促進税制を利用するためには、基本計画に適合する地域経済牽引事業計画を策定しなければなりません。経済産業省は、地域経済牽引事業に求められる要件として以下の3つを定めています。
- 地域の特性を活用した事業
- 高い付加価値を創出できる事業
- 地域の事業者に対する経済的効果がある事業
上記の要件を満たした地域経済牽引事業計画を策定すれば、都道府県知事による承認を受けて地域未来投資促進税制を申請できます。地域経済牽引事業計画の策定方法については、経済産業省が公表する「地域未来投資促進法における地域経済牽引事業計画のガイドライン」に記載されています。事業計画策定の際の参考にしてください。
国(主務大臣)による課税特例の要件を満たす
地域経済牽引事業計画の承認を受けた後、国(主務大臣)による課税特例の要件を満たす必要もあります。具体的な要件は、以下のとおりです。
要件番号 | 要件の概要 |
要件① | 先進評価委員会により、先進性を有すると認められること(労働生産性の伸び率4%以上、もしくは投資収益率5%以上) |
要件② | 設備投資額が2,000万円以上であること |
要件③ | 設備投資額が前年減価償却費の20%以上であること |
要件④ | 売上の伸び率が0を上回り、過去5年の対象事業にかかる市場規模の伸び率より5%以上高いこと |
要件⑤ | 旧計画が終了しており、その労働生産性の伸び率4%以上、かつ、投資収益5%以上であること |
要件⑥ | 労働生産性の伸び率5%以上、かつ、投資収益率5%以上であること |
要件⑦ | 直近事業年の付加価値増加額率が8%以上であること |
要件⑧ | 直近2事業年の平均付加価値額50億円以上、かつ、3億円以上の付加価値額を創出すること |
要件⑨ | 経営力の確認を受けた、産業競争力強化法第34条の2第1項に規定する特定中堅企業であって、「パートナーシップ構築宣言」の登録を受けており、かつ、設備投資額10億円以上であること |
上記のうち、要件の①〜⑤が通常類型で申請する際に満たす必要がある課税特例の要件です。要件⑥〜⑨の内、以下の組み合わせで要件を満たすと上乗せ類型での申請ができます。
- 上乗せ類型A:要件①〜⑦
- 上乗せ類型B:要件①〜⑥+要件⑧
- 上乗せ類型C:要件①〜⑨
地域未来投資促進税制を申請する際の注意点
地域未来投資促進税制を活用する際には、以下の注意点があります。
地域未来投資促進税制を申請する際は、上記のポイントに注意しましょう。
確認書交付前の資産取得は対象とならない
地域未来投資促進税制では、確認書交付前に取得した資産は税制優遇の対象となりません。
確認書とは、地域経済牽引事業計画が国(主務大臣)によって発効される課税特例の要件を満たしていると証明する文書です。確認書の交付を受けてから資産を取得しなければ、たとえ事業計画が承認されていても税制優遇を受けられません。
したがって、企業は設備投資のタイミングを慎重に検討する必要があります。例えば、事業計画の承認を受けた後すぐに設備を発注してしまうと、確認書の交付前に資産を取得してしまう可能性があります。そのため、確認書の交付時期を見すえた上で、設備の発注や契約のスケジュールを立てるのが重要です。
中古の設備は対象外
地域未来投資促進税制を利用する際は、中古の設備が税制優遇の対象外となる点にも注意が必要です。税制優遇の対象となる資産は、一度も事業用として使用されていない新品の機械装置・建物などです。
中古設備は対象外となるため、企業は設備選定の際に十分な注意が必要です。例えば、グループ会社間での設備移転や他社から購入した使用済み設備などは、たとえ新規導入であっても税制優遇の対象とはなりません。
地域未来投資促進税制を申請する流れ・ステップ
地域未来投資促進税制の申請は、以下複数のステップを経て行われます。
各ステップを適切に進めれば、地域未来投資促進税制の申請手続きをスムーズに進められます。
①地域経済牽引事業計画を作成
地域未来投資促進税制の申請プロセスの第一歩は、地域経済牽引事業計画の作成です。計画の作成にあたっては、まず自社の事業が地域の基本計画に合致しているかを確認します。
基本計画は各都道府県や市町村が策定したもので、地域の強みや目指すべき産業の方向性が示されています。各都道府県の基本計画は経済産業省ホームページの「同意基本計画一覧」で確認可能です。
地域経済牽引事業計画を作成する際は、「地域未来投資促進法における地域経済牽引事業計画のガイドライン」を参考にしましょう。必須記載事項など計画に盛り込むべき要件が記載されています。
②都道府県知事から計画の承認を受ける
地域経済牽引事業計画を作成した後は、都道府県知事からの承認を受けます。承認申請の手続きには、作成した事業計画書や申請書意外にもさまざまな書類が必要です。
詳しくは各都道府県に問い合わせて確認しましょう。審査の結果、計画が承認されると都道府県知事から承認書が交付されます。
③確認申請書の作成・事前相談
都道府県知事の承認を受けた後、次のステップは確認申請書の作成と事前相談です。地域未来投資促進税制を利用するためには、国(主務大臣)に対して事業計画が課税特例の要件を満たしていると確認してもらう必要があります。
指定された「主務大臣把握のための事前締め切り」までに、確認申請書を作成して事前相談を実施しなければなりません。
日程 | 第38回 | 第39回 | 第40回 | 第41回 | 第42回 | |
右記以外 | 災害特例 | |||||
主務大臣把握のための事前締め切り | 2024年3月5日 | 2024年4月5日 | 2024年7月1日 | 2024年9月2日 | 2024年11月1日 | 2024年12月17日 |
確認申請書の締め切り | 2024年4月1日 | 2024年5月7日 | 2024年7月26日 | 2024年9月30日 | 2024年11月27日 | 2025年1月22日 |
主務大臣による確認日 | 2024年5月31日 | 2024年9月30日 | 2024年11月29日 | 2024年1月31日 | 2024年3月24日 |
事前相談後に主務大臣を確定した場合は、都道府県から通知されます。
④主務大臣に申請書を提出して設備投資を実施
確認申請書の作成と事前相談を終えたら、いよいよ主務大臣への正式な申請書提出と設備投資の実施段階に入ります。
まず、完成した確認申請書に主務大臣の宛名を記載して提出します。申請書には、事前相談で指摘された点をすべて反映させ、不備のない状態にしておくことが重要です。
申請書が受理されると、審査が開始されます。審査の結果、申請内容が課税特例の要件を満たしていると認められると、確認書が交付される流れです。確認書の交付をもって、いよいよ設備投資を実施できます。
地域未来投資促進税制の適用事例
地域未来投資促進税制を実際に適用した事例として、経済産業省は以下の事例を公表しています。
上記事例について、以下で詳しく見ていきましょう。
石田屋二左衛門株式会社
石田屋二左衛門株式会社は福井県で酒造を営む企業です。酒造会社グループの中核を担う企業であり、新たな観光客誘致を図るため、発酵文化の魅力を体験できる観光施設の設置を検討していました。
そこで、地域未来投資促進税制を申請し、観光客を誘致する新しい拠点を新設します。具体的には、事業実施場所が農用地区域であったため、配慮規定を活用して農地転用許可を実現しています。また、施設の建設にあたっては税金控除・固定資産税や不動産取得税の減免でキャッシュフローの改善も図りました。
ダイト株式会社
ダイト株式会社は、富山県にある医薬品製造メーカーです。医薬品製造を営んでおり、市場の急速な拡大が見込まれる抗がん剤などの高性能薬剤製造へ参入するため、製薬工場の新設を検討していました。
そこで、地域未来投資促進税制を申請して製薬工場の新規新設に乗り出しました。工場の建設にあたっては、税制優遇措置によって初期投資にかかる経済的負担を抑えています。治験のための試作・薬剤の本格生産・包装まで一貫して実施可能な体制を整備し、新規市場の獲得に成功しています。
株式会社キーテック
株式会社キーテックは、山梨県にある木材加工業者です。針葉樹合板の需要に対応するため、丸太の調達エリアである山梨県に合板製造工場を新設したいと考えていました。
そこで、地域未来投資促進税制を申請して合板工場の新設を行いました。税制優遇制度を活用して、投資初期のキャッシュフロー悪化を防いでいます。
新設工場によって原料の安定供給・製造工程の効率化を図り、生産能力の向上に成功しました。中央自動車道などの道路網を利用して、消費地である首都圏に迅速な配送が可能となっています。
まとめ
地域未来投資促進税制は、地域経済の活性化を目指す企業を支援する制度です。設備投資に対する税制優遇や金融支援、規制緩和などの多彩な支援を用意しています。
申請は地域経済牽引事業計画の作成から始まり、都道府県知事の承認、主務大臣への確認申請と複数のステップがあります。なお、確認書交付前の資産取得や中古設備は対象外となるため、注意が必要です。地域未来投資促進税制を活用し、新規事業に参入して経営規模の拡大を図りましょう。
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