企業のDX化が進むとともに、IT導入補助金を活用する企業も増えています。IT導入補助金を検討しているものの、具体的にどのような制度か詳しく知らない企業も多いでしょう。
IT導入補助金は、経済産業省が提供する事業者のデジタル化支援を目的とした補助金制度です。IT導入補助金を活用すれば、経済的な負担を抑えながら希望するIT導ツールを導入できます。
今回は、IT導入補助金について対象事業者の条件・2024年のスケジュールなどをわかりやすく解説します。本記事を読めば、IT導入補助金について詳しく理解してスムーズに申請手続きを済ませられます。IT導入補助金を活用し、自社の業務効率化・売上拡大などの成果につなげましょう。
自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
目次
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者のデジタル化を支援する国の制度です。業務効率化やビジネス拡大を目指す企業が、ITツールを導入する際の費用を一部補助します。
補助対象は、会計ソフト・受発注システム・顧客管理ツールなど幅広いITツールです。補助金額・補助率は各申請類型によって異なります。例えば、通常枠の補助金額は導入費用の最大1/2で、上限は450万円です。
IT導入補助金を利用すれば、企業は最新のIT技術を比較的低コストで導入でき、競争力の向上や生産性の改善が期待できます。また、デジタル化による業務プロセスの見直しは働き方改革にもつながります。ただし、受給するためには申請書類の作成や審査があり、導入後の効果測定も必要です。
IT導入補助金を利用するメリット
IT導入補助金には、中小企業・小規模事業者にとって魅力的なメリットがいくつかあります。以下では、主要な3つのメリットについて詳しく解説します。
上記のメリットに魅力を感じる場合は、IT導入補助金を積極的に活用しましょう。
受給された金額は返済不要
IT導入補助金は名前の通り「補助金」であり、融資とは異なります。つまり、審査に通過して補助金を受給した場合、金額を返済する必要はありません。
例えば、通常枠を利用して1,000万円のITシステムを導入する場合、最大450万円の補助を受けられる可能性があります。補助金として交付された450万円は、企業が返済する必要のない資金です。
返済不要であるメリットは、企業の財務面での負担が軽減される点です。ITツールの導入は初期費用が高額になりがちですが、補助金によって自己負担の割合が低くなります。結果として、より多くの中小企業がデジタル化に踏み出せるようになり、業務効率化や競争力強化につながります。
また、返済の必要がないと導入後のキャッシュフローへの影響も最小限に抑えられます。ITツール導入後も安定した経営を維持しやすくなる点もメリットです。
複数回の申請が可能
IT導入補助金の大きな特徴に、複数回の申請が可能である点が挙げられます。IT導入補助金は年度内に複数回の申請が可能で、都度異なるITツールの導入が可能です。
例えば、1回目の申請で会計ソフトを導入し、2回目の申請で顧客管理システムを導入するなど段階的にITツールを導入ができます。企業は自社のペースや優先順位に合わせて、計画的にデジタル化を進められる点がメリットです。
複数回申請が可能な場合、リスクの分散にもつながる点もメリットです。一度に多くのITツールを導入せず、段階的に導入すれば各ツールの効果を確認しながら次の導入を検討できます。また、従業員の習熟度に合わせて徐々にデジタル化を進められるため、スムーズな移行が可能です。
採択率が比較的高く受給しやすい
IT導入補助金の特筆すべき特徴に、比較的高い採択率があります。例えば、直近の公募回における通常枠の採択率は77.2%となっており、多くの事業者が補助金を受給できています。
公募回 | 申請数 | 交付決定数 | 採択率 |
5次締切分 | 3,577 | 2,762 | 77.2% |
ただし、採択されやすいとはいえ、申請には一定の条件を満たさなければなりません。例えば、「導入するITツールがあらかじめ事務局に認定されたものである」などの条件が定められています。公募要領で要件を確認し、入念に申請書の作成をおこなう必要があります。
IT導入補助金には5つの申請枠がある
IT導入補助金は、企業のニーズや状況に応じて以下の5つの申請枠が設けられています。
各枠には特徴があり、適切な枠を選択すれば効果的に補助金を活用できます。
通常枠
通常枠は、IT導入補助金の中で最も一般的な申請枠です。中小企業・小規模事業者が業務効率化・生産性向上を目的としてITツールを導入する際に利用できます。
通常枠では幅広いITツールが対象となり、会計ソフト・顧客管理システムなどさまざまなソリューションの導入に活用できます。
補助金額はITツール導入費用の1/2以内で、上限は450万円です。ただし、導入するITツールは事前に認定を受けたものである必要があります。
通常枠の特徴は、汎用性の高さにあります。補助対象のITツールが幅広いため、多くの中小企業が自社の課題に合わせて最適なITツールを選択して導入できます。
インボイス枠(インボイス対応類型)
インボイス枠(インボイス対応類型)は、2023年10月から開始されたインボイス制度における対応を支援するための申請枠です。インボイス制度に対応するためのITツールを導入する事業者を対象としています。
補助金額はITツール導入費用の4/5以内で、上限は350万円です。通常枠と比べて補助率が高い点が特徴で、補助対象経費に対してより多くの補助金を受けられます。対象となるITツールは、インボイス制度に対応した会計・受発注・決済ソフトおよびPC・ハードウェアです。
インボイス対応類型を利用するメリットは、インボイス制度における対応コストを大幅に削減できる点です。インボイス制度に対応するためには、会計ソフトの新規導入など多くの事業者にとって新たな負担が発生します。しかし、補助金を活用すれば、ソフトウェアの導入費用などを抑えてスムーズな制度対応が可能となります。
インボイス枠(電子取引類型)
インボイス枠(電子取引類型)は、インボイス制度における対応とあわせて取引のデジタル化の促進を目的とした申請枠です。発注者がインボイス対応の受発注ソフトを導入し、受注者に無償でアカウントを提供する場合に導入費用の一部を補助してくれます。
補助金額はITツール導入費用の2/3以内で、上限は350万円です。インボイス対応類型と同様に高い補助率が設定されており、事業者の負担を軽減しつつデジタル化を実現できます。
対象となるITツールは、インボイス制度に対応した受発注ソフトです。取引プロセス全体のデジタル化を進めてペーパーレス化やデータの活用が促進され、経営の効率化や生産性向上につながる点がメリットです。
セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は、中小企業・小規模事業者のサイバーセキュリティ対策強化を目的とした申請枠です。指定されたセキュリティサービスの導入費用を補助してくれます。
補助金額はサービス導入費用の1/2以内で、上限は100万円となっています。サービス利用料の最大2年分が補助対象となり、高度なセキュリティ対策の導入が可能です。
補助対象は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されるサービスです。セキュリティ対策推進枠を利用するメリットは、高度なセキュリティ対策を比較的低コストで導入できる点です。
サイバーセキュリティは専門知識や高額な投資が必要となるため、中小企業にはハードルが高い分野でした。補助金を活用すれば、経済的な負担を抑えてセキュリティ対策を実施できます。
複数社連携IT導入枠
複数社連携IT導入枠は、複数の中小企業・小規模事業者が連携してITツールを導入する際に利用できる申請枠です。サプライチェーンの効率化や地域の企業間連携の促進を目的としています。
補助金額はITツール導入費用の4/5以内で、上限は3,000万円と高額に設定されています。ただし、連携する企業数や導入するITツールの規模によって補助上限額が変動する仕組みです。
対象となるITツールは、会計・受発注・決済の機能を保有するソフトウェアとそのオプション・役務およびハードウェアです。複数社連携IT導入枠は、単独企業では導入が難しい大規模なITシステムを複数企業で共同導入できます。また、企業間の情報連携が強化され、サプライチェーン全体の最適化や新たなビジネスモデルの創出につながる可能性があります。
IT導入補助金の申請枠はどれを選ぶべきか?
IT導入補助金の申請枠選択は、自社の状況と目的に応じて行いましょう。例えば、インボイス制度対応のために会計ソフトを導入する場合は、補助率の高い「インボイス枠」を検討しましょう。一方で、インボイス枠で対象とならない顧客管理システムなどを導入したい場合は、「通常枠」での申請がおすすめです。
各枠には補助率や上限額の違いがあるため、導入予定のITツールの費用と照らし合わせて選択しましょう。迷った場合は、IT導入支援事業者に相談することも良い方法です。自社の課題解決に最適な申請枠を選べば、効果的なIT導入が実現できます。
IT導入補助金の補助対象経費
IT導入補助金の補助対象経費は、主にITツールの導入に直接関わる費用です。申請枠によって異なりますが、具体的には以下のような経費が補助対象となります。
ただし、単なるパソコンやタブレットの購入費用、日常的な保守・メンテナンス費用などは対象外です。また、導入するITツールは事務局から事前に認定を受けたものである必要があります。対象経費の詳細は各申請枠の公募要領に記載されているため、IT導入補助金の公式ホームページから確認しましょう。
IT導入補助金の対象事業者
IT導入補助金は、中小企業と小規模事業者を対象としています。以下では、各事業者の詳細を説明します。
中小企業
IT導入補助金における中小企業の定義は、中小企業基本法に基づいています。具体的には、業種ごとに資本金額または従業員数のいずれかが定められた基準以下である企業が対象です。
例えば、製造業・建設業・運輸業では資本金3億円以下または従業員300人以下など業種ごとに条件が定められています。ただし、資本金額または従業員数を満たしていても、大企業の子会社・関連会社である場合は対象外となる可能性があります。具体的には、発行済株式の総数または出資金額の1/2以上を同一の大企業が所有している場合などは中小企業として見なされません。
小規模事業者
IT導入補助金の対象となる小規模事業者は、中小企業基本法で定義される小規模企業者を指します。具体的には、製造業・その他の業種では従業員20人以下、商業・サービス業では従業員5人以下の事業者が小規模事業者です。
なお、小規模事業者には個人事業主も含まれます。よって、従業員を雇用していない個人事業主もIT導入補助金を導入できます。
IT導入補助金を申請する流れ
IT導入補助金の申請は、以下の6つのステップで進められます。
各ステップを丁寧に進めれば、スムーズな申請と補助金の獲得が可能です。
公募要領の確認
IT導入補助金の申請プロセスの第一歩は、公募要領の確認です。公募要領には、補助金の目的・対象事業者・補助対象経費・申請方法など、重要な情報が詳細に記載されています。公募要領を熟読すれば、申請の全体像を把握して「自社が対象となるか」「どの申請枠が適しているか」も判断しやすいです。
公募要領は、IT導入補助金事務局のホームページで公開されています。補助金の内容や条件は年度によって変更される可能性があるため、最新情報を常に確認しましょう。
gBizIDプライムアカウントの取得などの申請準備
IT導入補助金の申請には、gBizIDプライムアカウントが必要不可欠です。gBizIDとは、1つのアカウントで複数の行政サービスにログインできる認証システムです。
gBizIDプライムアカウントの取得は、公式ホームページから手続きが可能です。申請を検討したら、まずはアカウント取得から始めましょう。また、申請には以下2つの手続きも必要となります。
- 「SECURITY ACTION」宣言の実施
- 「みらデジ経営チェック」の実施
詳しくは、IT導入補助金の公式ホームページから確認してください。
ITツール・IT導入支援事業者の選定
IT導入補助金を活用するためには、認定されたITツールとIT導入支援事業者を選定する必要があります。まず、ITツールの選定では、自社の課題や目標に合致したものを選ぶことが重要です。
IT導入補助金事務局のホームページで公開されている公募要領を確認し、対象となるツールの種類や機能を把握しましょう。次に、導入を希望するITツールを扱うIT導入支援事業者を選定します。なお、認定されたITツールとIT導入支援事業者は、IT導入補助金の公式ホームページにある「ITツール・IT導入支援事業者検索」から検索可能です。
交付申請〜交付決定
交付申請は、IT導入補助金を受けるための正式な手続きです。自社の基本情報・選定したITツールなどを詳細に記載した申請書を提出します。
申請は、IT導入支援事業者から招待されるマイページを通じて行います。マイページには、gBizIDプライムアカウントを使用してログインする流れです。
申請書提出後、事務局による審査が行われます。審査に通過すると、交付決定通知が発行されます。
ITツールの導入〜事業実績報告
交付決定を受けた後、いよいよITツールの導入段階に入ります。IT導入支援事業者と緊密に連携しながら、計画に沿ってITツールを導入していきましょう。
導入作業が完了したら、事務局に事業実績報告が必要です。報告書には、導入したITツールの詳細・実際にかかった費用などを記載します。
事業実績報告書の提出期限は、公募要領に記載されています。期限に間に合わないと補助金が受給できないため注意しましょう。事業実績報告書を提出した後は確定検査がおこなわれ、問題がなければ補助金を受給できる流れです。
補助金交付後は事業実施効果報告を提出
補助金交付の翌年度から一定期間、毎年「事業実施効果報告」を提出する必要があります。ITツール導入による効果を継続的に測定し、結果を事務局に報告するものです。
報告書の提出は、通常は補助金交付後3年間にわたって毎年求められます。なお、正当な理由なく事業実施効果報告を提出しない場合、補助金の返還を求められる可能性もあります。期日を守って確実に提出しましょう。
IT導入補助金を申請する際の注意点
IT導入補助金の申請には、以下の重要な注意点があります。
上記を事前に把握して適切に対応すれば、スムーズな申請と確実な補助金獲得が可能です。
交付決定前に導入したITツールは補助対象外
IT導入補助金における注意点は、交付決定前のITツール導入は補助対象外となる点です。具体的には以下の行為が交付決定前に行われた場合、補助金を受給できません。
- ITツールの発注や契約締結
- ITツールの購入や支払い
- ITツールの利用開始
よって、申請者はITツールを見つけてもすぐに導入せず、まず申請を行って交付決定を待つ必要があります。
導入済みのシステム拡張などは対象外
IT導入補助金では、既に導入済みのシステムの拡張や機能追加は補助対象外です。具体的に対象外となるケースには以下のようなものがあります。
- 既存システムのバージョンアップ
- 既存システムへの機能追加
- 既存システムのライセンス追加購入 など
不明な点がある場合は、IT導入支援事業者や事務局に事前に確認しましょう。
以前に交付を受けた場合は交付決定日から12ヶ月以内は申請不可
IT導入補助金では、同一事業者による同じ申請枠での複数回申請を制限しています。過去にIT導入補助金の交付を受けた事業者は、交付決定日から12ヶ月以内に同じ申請枠で新たな申請ができません。
例えば、2023年6月1日に通常枠で交付決定を受けた場合、同じ枠で次に申請できる時期は2024年6月1日以降です。ただし、上記は補助金の交付を受けた場合のみ適用されます。交付決定に至らなかった場合は、次の申請に制限はありません。
2024年のIT導入補助金の申請スケジュール
2024年のIT導入補助金の申請スケジュールは、直近の公募回の場合、以下のとおりです。
申請枠 | 公募回 | 締め切り日 | 交付決定日 | 事業実施期間 | 事業実績報告期限 |
通常枠 | 7次締め切り分 | 2024年10月15日(火)17:00 | 2024年11月22日(金)(予定) | 交付決定〜2025年1月16日(木)17:00(予定) | 2025年1月16日(木)17:00(予定) |
インボイス枠(インボイス対応類型) | 12次締め切り分 | 2024年10月15日(火)17:00 | 2024年11月22日(金)(予定) | 交付決定〜2025年1月16日(木)17:00(予定) | 2025年1月16日(木)17:00(予定) |
インボイス枠(電子取引類型) | 7次締め切り分 | 2024年10月15日(火)17:00 | 2024年11月22日(金)(予定) | 交付決定〜2025年1月16日(木)17:00(予定) | 2025年1月16日(木)17:00(予定) |
セキュリティ対策推進枠 | 7次締め切り分 | 2024年10月15日(火)17:00 | 2024年11月22日(金)(予定) | 交付決定〜2025年1月16日(木)17:00(予定) | 2025年1月16日(木)17:00(予定) |
複数社連携IT導入枠 | 4次締め切り分 | 2024年10月15日(火)17:00 | 2024年11月22日(金)(予定) | 交付決定〜2025年1月16日(木)17:00(予定) | 2025年1月16日(木)17:00(予定) |
なお、上記はすべて最終公募の日程です。本年度中にIT導入補助金を受給したい企業は、早めに手続きに入りましょう。
まとめ
IT導入補助金は、中小企業のデジタル化を支援する制度です。通常枠ではITツール導入費用の最大1/2を補助してくれます。通常枠以外にも、インボイス対応枠・セキュリティ対策推進枠など、目的に応じた申請枠が用意されています。
申請には準備が肝心で、gBizIDの取得やIT導入支援事業者の選定を事前に済ませておくのがコツです。ただし、交付決定前のITツール導入は対象外であるため注意しましょう。また、過去に交付されてから12ヶ月以内は同じ申請枠で再申請できません。
今回の内容を参考に、IT導入補助金を活用して自社のデジタル化をスムーズに進め、業務効率化や競争力強化につなげましょう。
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