キャリアアップ助成金で必要な就業規則とは?必須項目・規定例などを紹介

キャリアアップ助成金で必要な就業規則とは?必須項目・規定例などを紹介

キャリアアップ助成金では、申請時に要件を満たした就業規則の提出が求められます。しかし、どのように要件を満たした就業規則を作成すればいいかわからない方も多いでしょう。

キャリアアップ助成金の審査では、就業規則を通して実際に助成対象となる取り組みが企業内で適用・実施されているかが確認されます。就業規則には、正社員転換の実施タイミング・手続きなど助成対象となる取り組みに関する項目の記載が必要です。

今回はキャリアアップ助成金で必要な就業規則について、必須項目・規定例などを紹介します。本記事を読めば、キャリアアップ助成金の申請条件を満たした就業規則をスムーズに作成できます。キャリアアップ助成金を活用し、効率的に労働環境の整備をおこないましょう。

自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる

キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するために厚生労働省が設けた助成金制度です。企業が非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行った際に、取り組みに対する金銭的な支援を目的としています。具体的には、以下のような取り組みに対して、一定の要件を満たした場合に助成金が支給されます。

キャリアアップ助成金の助成対象例
  • 有期雇用契約で働く従業員を正社員に転換
  • パートタイム労働者の賃金を引き上げ

企業は人材の確保や育成にかかるコストを軽減でき、一方で労働者は安定した雇用と処遇改善の機会が増える点が期待されています。キャリアアップ助成金は、企業の規模や業種を問わず利用が可能です。ただし、申請には細かい要件や手続きがあるため、公募要領を確認しながら進めることをおすすめします。

「正社員化支援」「処遇改善支援」の2つの枠組みがある

キャリアアップ助成金は、大きく分けて「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つの枠組みで構成されています。まず、「正社員化支援」は有期雇用・無期雇用労働者を正社員に転換した企業に対して助成金を支給する制度です。企業は正社員化に伴う人件費の増加を一部補填でき、労働者は安定した雇用と将来的なキャリア展望を得られます。

正社員化支援の対象は、6ヶ月以上継続して雇用されている有期雇用・無期雇用労働者です。正社員への転換後も、6ヶ月以上継続して雇用されることが条件となります。

一方、「処遇改善支援」は非正規雇用労働者の賃金や労働条件を改善した企業に対して助成金を支給する制度です。具体的には、非正規雇用労働者の賃金の引き上げや賞与・退職金制度の導入、社会保険の適用などが対象となります。企業は人材の定着率向上や生産性の向上を図り、労働者はモチベーションの向上や生活の安定を得られる点がメリットです。

両枠組みとも企業規模や業種によって支給額や要件が異なるため、自社に最適な支援を選択するのが重要です。

支給申請のやり方

キャリアアップ助成金の支給申請は、一定の手順に従って行う必要があります。以下の表が、おおまかな申請の流れです。

助成金の申請手順
1.キャリアアップ計画を作成し、管轄の労働局・ハローワークに提出
2.正社員化・賃金改定などキャリアアップ計画で記載した取り組みを実施
3.取り組み実施後、6ヶ月分の賃金の支払を実施
4.支給申請を行い、助成金を受給

申請書類の審査を経て、要件を満たしていると認められれば助成金が支給されます。なお、申請の際は細かい要件や提出書類の確認が必要なため、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。また、最新の情報や詳細な要件については、厚生労働省のホームページ・最寄りのハローワークで確認しましょう。

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キャリアアップ助成金の申請に必要となる「就業規則」とは

キャリアアップ助成金の申請に必要となる「就業規則」とは

就業規則とは、労働条件や職場の規律などを定めた会社の基本ルールを明文化したものです。労働基準法では常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています。

就業規則には労働時間・休日・休暇・賃金・退職に関する事項など、労働条件の基本的な内容が記載されています。キャリアアップ助成金の申請に関しては、特に正社員転換制度や賃金規程などが重要になってきます。

就業規則の提出が求められる理由

キャリアアップ助成金の申請で就業規則の提出が求められる理由は、企業が助成対象となる取り組みを実施しているか確認するためです。就業規則は労働条件の基準を定めた公式文書です。

就業規則に基づいて、雇用管理が行われることが前提となっています。助成金の対象となる正社員化・処遇改善が、会社の制度として確立されていることを証明するために就業規則の提出が必要です。

キャリアアップ助成金の改正点は就業規則への反映が必要

キャリアアップ助成金は、令和4年4月に以下の制度改正がありました。

キャリアアップ助成金の改正点は就業規則への反映が必要
  • 無期雇用労働者への転換に対する助成を廃止
  • 「賞与もしくは退職金制度」「昇給制度」の両方の適用が必須
  • 非正規雇用労働者の定義が変更

就業規則を作成する際は上記変更点も盛り込む必要があるため、注意が必要です。

無期雇用労働者への転換に対する助成を廃止

キャリアアップ助成金の最新の改正点の1つとして、有期雇用労働者から無期雇用労働者への転換に対する助成が廃止されました。現在は、有期雇用・無期雇用労働者ともに、正規雇用労働者への転換のみが助成対象です。なお、有期雇用・無期雇用労働者が正社員転換した際の従業員1人当たりの助成額は、以下のとおりです。

  • 有期雇用労働者が正社員化:1人当たり60万円〜80万円
  • 無期雇用労働者が正社員化:1人当たり30万円〜40万円

「賞与もしくは退職金制度」「昇給制度」の両方の適用が必須

キャリアアップ助成金の改正において、「賞与もしくは退職金制度」と「昇給制度」の両方の適用が必須となりました。正規雇用労働者として認定される条件について、厚生労働省が公表するキャリアアップ助成金のパンフレットでは、以下のように記載されています。

「同一の事業主に雇用される通常の労働者に適用される就業規則などに、長期雇用を前提として賞与または退職金制度の実施および昇給の実施が規定され、当該規則が適用されている労働者であること」

引用:キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)|厚生労働省

就業規則に「賞与もしくは退職金制度」と「昇給制度」の記載がない場合、申請が無効となってしまいます。就業規則を作成する際は、上記2つの制度を明記しましょう。

非正規雇用労働者の定義が変更

キャリアアップ助成金の改正点の1つとして、以下のように非正規雇用労働者の定義が変更されました。

改正前6ヶ月以上雇用している有期または無期雇用労働者
改正後賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則など」の適用を6ヶ月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者

例えば、正社員と非正規雇用の契約社員で異なる賃金規定を設けているケースが、非正規雇用労働者に該当します。特に、就業規則などで「個別の雇用契約書で定める」と記載している場合は注意が必要です。

上記の場合、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の賃金額または計算方法の違いが確認できず、対象要件から外れてしまいます。キャリアアップ助成金を受給するためには、正社員・非正規雇用の賃金額または計算方法の違いが就業規則で明確に記載されている必要があります。

キャリアアップ助成金に必要な就業規則の必須事項・規定例

キャリアアップ助成金を申請する際、就業規則には以下の事項を明確に規定する必要があります。

キャリアアップ助成金に必要な就業規則の必須事項・規定例
  • 労働者区分の定義
  • 正社員転換の実施タイミング・手続き
  • 昇給・賞与・退職金
  • 契約期間

各項目の規定例を以下で紹介するため、参考にしながら自社の実情に合わせて適切な内容を盛り込みましょう。

労働者区分の定義

労働者区分の定義は、キャリアアップ助成金の申請において特に重要な要素です。助成金の対象となる従業員が明確になるだけでなく、各区分に応じた労働条件や処遇の違いも明らかとなります。就業規則には、以下のような労働者区分を明確に定義して記載する必要があります。

【第〇条(従業員の定義)】

正社員:期間の定めのない雇用契約を締結し、所定労働時間を勤務する者をいう。正社員は会社が指定する職務に従事し、会社の人事異動方針に基づき転勤、配置転換、出向などの対象となる。

パートタイマー:雇用契約期間を定めて雇用され、1週間の所定労働時間が正社員より短い者をいう。職務内容は契約時に定められた範囲内とし、原則として転勤や配置転換は行わない。

正社員転換の実施タイミング・手続き

正社員化コースの場合、正社員転換の実施タイミングと手続きに関して記載しなければなりません。就業規則には、以下のように記載する必要があります。

【第〇条(正規雇用への転換)】

1.会社は、勤続〇年以上の者に対して正社員転換の機会を設ける。ただし、会社の業績や人員計画により、実施しない場合がある。

2.正社員転換の時期は、毎月最初の営業日とする。

3.人事評価でB評価以上、もしくは面接試験で合格した場合に正社員転換となる。

上記のように、就業規則には正社員転換の手続き方法・要件・実施時期を明確に記載する必要があります。記載がない場合、申請対象外となりキャリアアップ助成金を受給できません。

昇給・賞与・退職金

昇給・賞与・退職金に関する規定も、就業規則に明記する必要があります。特に、正社員化コースの場合、「賞与もしくは退職金制度」「昇給制度」のある正社員への転換が必要です。例えば、昇給・賞与の場合は以下のように就業規則へ記載します。

【第〇条(昇給)】

毎年〇月〇日に昇給を実施する。昇給額は、個人の業績評価・職務遂行能力・勤務態度などを総合的に判断して決定する。ただし、会社の業績により昇給を実施しない場合がある。

【第〇条(賞与)】

賞与は、原則として年2回(〇月と〇月)に支給する。支給額は、会社の業績および個人の勤務成績などを勘案して、以下の算定対象期間に在籍した労働者に対し支給日に支給する。

算定対象期間支給日
〇月〇日〜〇月〇日まで△月△日
〇月〇日〜〇月〇日まで△月△日

契約期間

有期雇用労働者を正社員に転換させる場合、契約期間を定める必要があります。具体的な記載例は、以下のとおりです。

【第〇条(労働契約の期間)】

有期雇用労働者の契約期間は、原則として1年以内とする。ただし、業務の性質や本人の希望により、3年以内の期間で個別に定めることがある。契約期間満了の際、会社と従業員の合意により契約を更新できる。

キャリアアップ助成金受給のためには6ヶ月前から就業規則の適用が必要

キャリアアップ助成金受給のためには6ヶ月前から就業規則の適用が必要

キャリアアップ助成金を受給するためには、支給申請の6ヶ月前から改定した就業規則を適用している必要があります。例えば、2024年8月1日に非正規雇用労働者を正社員に転換する場合、2024年2月1日には要件を満たした就業規則を適用していなければなりません。

就業規則の改定には労働者代表の意見聴取など一定の手続きが必要なため、余裕を持って準備を進めることが重要です。また、改定した就業規則は速やかに従業員に周知し、実際の労務管理にも反映させる必要があります。

キャリアアップ助成金申請では労働条件通知書も必要

キャリアアップ助成金申請では労働条件通知書も必要

キャリアアップ助成金の申請において、就業規則と並んで重要な書類が労働条件通知書です。労働条件通知書は、労働基準法で労働者に交付が義務づけられている文書です。労働条件通知書には、労働契約の期間・仕事の内容・勤務時間や休日・賃金などの基本的な労働条件が記載されています。

キャリアアップ助成金の申請では、労働条件通知書の提出も必要です。労働条件通知書により、対象となる労働者の正社員転換・処遇改善が実際に行われたかを確認します。キャリアアップ助成金の申請準備を進める際は、就業規則の整備と並行して対象となる従業員全員の労働条件通知書の作成・更新を忘れないようにしましょう。

労働条件通知書で重要となる項目

労働条件通知書には労働基準法に基づいて複数の項目を記載する必要があります。キャリアアップ助成金の申請において特に重要となる項目は、以下の通りです。

労働条件通知書で重要な項目概要
労働契約の期間有期雇用労働者を正社員に転換する場合、「契約期間の定め」の項目を設ける必要がある。
就業時間・休日始業・終業の時刻・休日・休暇などは、所定労働時間・残業手当の計算に影響し、給与計算の根拠となる。
賃金(基本給・手当)正社員化コース・賃金規定など改定コースでは、基本給の賃金規定などを3%以上増額する必要がある。実際に3%以上の総額が行われていることを労働条件通知書で明記する必要がある。
昇給・賞与・退職金正社員化コースの場合、「賞与もしくは退職金制度」「昇給制度」が適用される正社員への転換が必要。昇給・賞与・退職金に関する事項を明記する必要がある。

労働条件が変更されるたびに作成の必要がある

労働条件通知書は労働条件が変更されるたびに新たに作成し、従業員に交付する必要があります。例えば、有期雇用から正社員への転換・基本給の引き上げなど労働条件に関わる変更が生じた場合、新たな労働条件通知書を作成・交付しなければなりません。

労働条件通知書の作成・通知は従業員の権利を保護し、労使間の誤解やトラブルを防ぐためにも重要です。また、キャリアアップ助成金の申請において、処遇改善の経過や実態を時系列で示す証拠としても機能します。

ただし、頻繁な更新は管理上の負担にもなり得ます。人事システムの活用やテンプレートの整備など、効率的な作成・管理方法を検討することも重要です。変更の都度、従業員に丁寧に説明を行い、内容を十分に理解してもらうことも忘れてはいけません。

まとめ

キャリアアップ助成金の申請には、適切な就業規則と労働条件通知書の整備が欠かせません。就業規則では、労働者区分の定義・正社員転換の手続き、昇給・賞与・退職金制度の明確な規定が重要です。また、改正点を反映させ、申請の6ヶ月前から適用する必要があります。

労働条件通知書は個々の従業員の労働条件を明示し、条件変更のたびに更新が必要です。就業規則・労働条件通知書などの書類を適切に整備すれば、助成金の要件を満たすだけでなく従業員の権利を守り、公平な労働環境を実現できます。

ただし、就業規則・労働条件通知書は労働基準法を遵守する必要があり、作成には専門的な知見も要求されます。社会保険労務士など専門家のアドバイスを受けながら、計画的に準備を進めましょう。

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