IT導入補助金は比較的採択率の高い補助金ですが、一定数不採択となる企業も存在します。IT導入補助金を検討しているものの、審査に通るか不安な企業も多いでしょう。
IT導入補助金で採択されるためには、審査項目を把握した上で要件を満たした申請書作りが重要です。今回は、IT導入補助金で採択されるコツを申請方法・必要書類とともに紹介します。
本記事を読めば、IT導入補助金で採択されるコツを理解してスムーズに申請ができます。IT導入補助金を活用し、自社の業務効率化・売上拡大などの成果につなげましょう。
自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
目次
IT導入補助金の過去の公募回における採択率
IT導入補助金の過去の採択率を見ると、年や公募回数によって変動があるものの一定の範囲で推移しています。直近の公募において各申請枠の採択率をみてみると、以下の表の通りです。
申請類型 | 公募回 | 申請数 | 採択数 | 採択率 |
通常枠 | 5次締め切り分 | 3,577 | 2,762 | 77.2% |
インボイス枠(電子取引類型) | 5次締め切り分 | 0 | 0 | – |
インボイス枠(インボイス対応類型) | 10次締め切り分 | 3,797 | 3,567 | 93.9% |
セキュリティ対策推進枠 | 5次締め切り分 | 35 | 32 | 91.4% |
複数社連携IT導入枠 | 2次締め切り分 | 0 | 0 | – |
インボイス枠(電子取引類型)・複数社連携IT導入枠は年間を通して2〜3件ほどしか申請されておらず、正確な採択率を算出できないのが現状です。他の申請枠は多くの応募があり、採択率は70%〜90%程度で推移しています。
補助金の中では比較的採択率が高い制度ですが、一定数不採択の企業もあるため、申請書類の作成は入念な準備が必要です。採択されるためには、事業計画の具体性・期待される効果などが重要な評価ポイントとなります。
IT導入補助金の審査内容
IT導入補助金の審査内容は、申請者の事業計画の実現可能性と効果を多角的に評価するものです。主な審査ポイントは、以下のとおりです。
- 自社の経営課題を理解し、経営改善に向けた具体的な問題意識を持っているか
- 自社の状況や課題分析および将来計画に対し、改善すべきプロセスが導入する「ITツール」の機能により期待される導入効果とマッチしているか
- 内部プロセスの高度化・効率化やデータ連携による社内横断的なデータ共有・分析などを取り入れ、継続的な生産性向上と事業の成長に取り組んでいるか
- 労働生産性の向上率が基準値を満たしているか
- 生産性の向上および働き方改革を視野に入れ、国の推進する関連事業に取り組んでいるか
- 国の推進するセキュリティサービスを選定しているか
- 指定する数値の賃上げを実行しているか
なお、審査対象となる労働生産性と賃上げについては以下の条件が設定されています。
【労働生産性】
以下要件をすべて満たす3年間の事業計画を策定して実行する
- 1年後に労働生産性を3%以上向上させる
- 事業計画期間において労働生産性を年平均成長率3%以上向上させる
- 生産性向上の目標が実現可能かつ合理的である
【賃上げ】
補助金申請額150万円未満の申請者で、事業計画期間において以下の要件をすべて満たす3年の事業計画を策定して実行している
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にする
- 事業計画期間において、給与支給総額を年平均成長率1.5%以上向上させる
申請者は上記の審査項目を意識しながら、具体的かつ説得力のある事業計画を立案することが重要です。また、自社の強みや独自性を明確に示せれば、審査における評価を高める可能性があります。
IT導入補助金で採択されるためのコツ
IT導入補助金で採択率を高める以下の具体的なコツを紹介します。
上記のポイントを押さえれば、より説得力のある申請書を作成して採択の可能性を高められます。
労働生産性計画数値などのデータ入力は申請要件を満たした数値を記載する
IT導入補助金の申請において、労働生産性計画数値などの数値データの記載は非常に重要です。IT導入による具体的な効果を数値で示すものであり、審査の重要な判断材料となります。
まず、申請要件を満たす数値を記載することが絶対条件です。例えば、労働生産性の数値に関しては1年後の伸び率が3%以上であることが求められます。数値の設定にあたっては過去の実績・業界平均・類似事例などを参考にしつつ、自社の状況に即した予測を立てます。
入力ミスなどの不備を防ぐ
IT導入補助金の申請において、入力ミスや不備は採択の可能性を大きく低下させる要因となります。審査は厳格に行われるため、些細なミスでも申請が却下される可能性が高いです。
まず、申請書の作成には十分な時間を確保することが重要です。締め切り直前の慌ただしい作業は、ミスを誘発しやすいため避けましょう。余裕を持ったスケジュールを立て、複数回のチェックが可能な時間配分を心がけてください。
次に、チェックリストの作成と活用が効果的です。申請書の各項目・必要書類・数値の整合性などをリスト化し、1つずつ確認していけば漏れやミスを防げます。特に、財務諸表の数字や労働生産性の計算など数値に関する部分は複数回の確認が必要です。
また、可能であれば複数人でのチェック体制を構築することをおすすめします。自分では気づかないミスも他者の目線で発見できるケースがあります。
IT導入補助金を申請する基本的な流れ・ステップ
IT導入補助金の申請プロセスは、以下の複数ステップから構成されています。
各ステップを着実に進めれば、スムーズに申請をおこなって採択の可能性を高められます。
公募要領で制度内容を確認
IT導入補助金の申請プロセスの第一歩は、公募要領を熟読して制度の詳細を理解することです。公募要領には補助金の目的・対象となる事業者や経費・補助率など、重要な情報が網羅されています。
特に注意すべき点は、申請者の資格要件です。中小企業や小規模事業者が主な対象ですが、業種や従業員数、資本金などの条件があります。
また、ITツールの要件や補助対象となる経費の範囲も細かく規定されているため、条件を満たせるか慎重に確認しましょう。公募要領には、申請から補助金交付までのスケジュールも記載されています。各段階の締め切りを把握し、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。
公募要領の内容は年によって変更される可能性があるため、最新の情報を確認することも忘れずにおこないましょう。不明点があれば、事務局やIT導入支援事業者へ問い合わせてください。
「gBizIDプライムアカウント」の取得・「SECURITY ACTION」の宣言
IT導入補助金の申請には、「gBizIDプライムアカウント」の取得が必須です。gBizIDは政府が提供する事業者向けの共通認証システムで、各種行政手続きをオンラインで行うために使用されます。
「gBizIDプライムアカウント」の取得には、オンラインもしくは郵送で手続きが可能です。郵送の場合は発行までに1週間程度かかりますが、オンラインであれば最短即日でアカウントを取得できます。そのため、急ぎの場合はオンラインで手続きを進めましょう。
一方、「SECURITY ACTION」は、中小企業自らが情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度です。IT導入補助金の申請には、「SECURITY ACTION」の宣言を行うことが条件となっています。宣言は特別な知識や技術を必要とせず、オンラインで簡単に実施可能です。
「みらデジ経営チェック」の実施
IT導入補助金の申請では、「みらデジ経営チェック」の実施も必要です。自社のデジタル化の現状を客観的に評価し、今後の方向性を明確にするためのツールです。
「みらデジ経営チェック」は、いくつかの質問に回答することで他社と比較したデジタル化の進捗状況を把握できます。質問は、経営ビジョン・現状分析・将来構想などの項目で構成されています。「みらデジ経営チェック」の結果は、IT導入補助金の申請書類に添付が必要です。
「みらデジ経営チェック」の実施は、単なる申請要件の1つではなく自社の経営戦略を見直し、デジタル化の方向性を定める貴重な機会でもあります。「みらデジ経営チェック」は定期的に実施することが推奨されており、継続的な経営改善のツールとしても活用可能です。
交付申請
交付申請は、IT導入補助金を受けるための手続きです。具体的な事業計画や導入するITツールの詳細、期待される効果などを詳しく記載した申請書を提出します。
申請書の作成には細心の注意が必要です。特に、事業計画ではIT導入の目的・具体的な導入内容・期待される効果を明確に記載しましょう。また、労働生産性の向上率など、数値目標も具体的に示す必要があります。
申請書類には、みらデジ経営チェックの結果なども添付します。ITツールはあらかじめ認定された「IT導入支援事業者」が提供するものから選択しなければなりません。
交付申請後は審査が行われ、採択結果が通知されます。採択された場合は、交付決定通知を受け取ることとなります。
補助事業を実施して事業実績報告を提出
交付決定を受けた後は、申請した計画に基づいてITツールを導入します。導入過程では、IT導入支援事業者と密に連携し、スムーズな導入と運用を心がけましょう。また、導入後の社内教育や運用体制の整備も忘れずに行います。
補助事業完了後は、事業実績報告書を提出する必要があります。事業実績報告書には、実際に導入したITツールの詳細・かかった経費・導入による効果などを記載します。特に、当初の計画との差異がある場合は、理由を明確に説明することが重要です。
報告書には、導入したITツールの請求書や支払い証明なども添付します。上記の書類は補助金額の確定に直接影響するため、正確かつ丁寧な準備が必要です。
補助金交付後に事業実施効果報告を提出
補助金の交付を受けた後も、事業実施効果報告の提出が必要です。事業実施効果報告は、IT導入による効果を長期的に測定して補助金の有効性を確認するために行われます。
事業実施効果報告は、補助金交付後の一定期間の間で提出が必要です。具体的には、導入したITツールの活用状況・労働生産性の変化・売上や利益への影響など、具体的な数値と共に詳細な分析を行います。
特に重要なポイントは、当初設定した目標に対する達成度の評価です。例えば、「労働生産性が計画通り向上したか」「業務効率化によって具体的にどのような改善が見られたか」などを、できるだけ定量的に示す必要があります。
なお、事業実施効果報告を適切に行わない場合は補助金の返還を求められる可能性もあるため、忘れずに対応しましょう。
IT導入補助金の申請に必要な書類
IT導入補助金の申請には、以下の書類が必要です。
【法人の場合】
- 履歴事項全部証明書(発行から3ヶ月以内)
- 税務署で発行された直近分の法人税の納税証明書
【個人事業主の場合】
- 運転免許証・運転経歴証明書もしくは住民票
- 税務署で発行された直近分の所得税の納税証明書
- 税務署が受領した直近分の確定申告書の控え
なお、確定申告書に関しては税務署が受領したとわかるもののみが対象です。具体的には、以下いずれかの要件を満たす確定申告書のみが受け付けられます。
- 収受日付印が押印されている
- 受付番号と受付日時が印字されている
- 確定申告書の控えと受信通知(メール詳細)が添付できる
特にe-taxで確定申告を行った場合は、税務署の押印がされません。税務署が受け取ったとわかるよう、確定申告書の控えとともに受領を通知したメールも一緒に添付する必要があります。
IT導入補助金の採択結果は申請締め切りから約1ヶ月で通知される
IT導入補助金の採択結果は、申請締め切りから約1ヶ月後に通知されます。なお、通常枠の直近の公募回における申請締切日と交付決定日は、以下のとおりです。
申請締切日 | 交付決定日 |
2024年10月15日(火)17:00 | 2024年11月22日(金) |
結果通知はメールや公式ホームページを通じて行われ、採択された場合はITツールの導入を進められます。
IT導入補助金の採択事例
IT導入補助金の採択事例として、以下の3社を紹介します。
上記の採択事例を参考に、申請書類を作成しましょう。
株式会社タウン管理サービス
株式会社タウン管理サービスは、アパート・マンションのサブリース・管理などを行う会社です。自社業務のデジタル化を課題として捉えていたのがきっかけで、IT導入補助金を活用して会計ソフトを導入しました。
クラウド型会計ソフトを導入し、既に導入していたSalesforceと連携させて情報の一元化・業務効率化を推進しています。業務効率化に大きく貢献し、定型業務の1割程度を削減できています。
株式会社シンク
株式会社シンクは、広告・ホームページ制作を行う会社です。今までは、オフライン媒体での集客を事業のメインとしていました。しかし、オンラインでの消費が進む中で時代に合わせた新規事業を始めなければならないと考えはじめたのがIT導入補助金活用のきっかけです。
IT導入補助金を活用して、オンラインレッスン予約システムを導入しました。今までの事業とは打って変わってオンライン英会話事業をスタートさせています。コストを抑えながらも、時代に合わせた事業をスムーズに展開できています。
コーラルウェイ有限会社
コーラルウェイ有限会社は静岡県沼津市でカフェを運営する会社です。慢性的な人手不足と回転率の改善を課題としていたのが、IT導入補助金を検討したきっかけです。
IT導入補助金を活用し、カフェにセルフオーダーシステムを導入しました。注文をとる業務をセルフオーダーシステムで自動化できたため、業務工数を削減して人手不足の解消につなげています。接客に苦手意識のある従業員の負担感も抑えられ、人材の定着率も向上しています。
まとめ
IT導入補助金は、中小企業のデジタル化を支援する制度です。採択率は年により変動しますが、平均して70%〜90%程度と高い数値となっています。
審査では事業計画の実現可能性や効果が重視されます。採択のコツは、記載ミスなく申請書類を作成し、指定された目標をクリアする形で具体的な数値を記載することです。
申請の流れは、公募要領確認・gBizID取得〜みらデジ経営チェック実施・交付申請・事業実施・効果報告と進みます。丁寧な準備と正確な情報提供が鍵となるため、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。IT導入補助金を活用し、自社のデジタル化を成功させましょう。
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