事業再構築補助金の申請には数多くの提出書類があり、審査も比較的厳しいのが現状です。事業再構築補助金を利用したいけれども、審査に通過できるか不安な方も多いでしょう。
事業再構築補助金では事業計画の評価がメインとなるため、事業計画書の作成が採択可否の大きな比重を占めます。公募要領には審査項目が明記されており、基準を満たした高い評価を得られる事業計画書づくりが欠かせません。
今回は事業再構築補助金のコツを8選、採択率・事例も含めて紹介します。本記事を読めば、事業再構築補助金申請のコツを理解してスムーズな申請が可能です。事業再構築補助金を活用して、自社の経営を安定化させましょう。
自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
目次
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動に甚大な影響を受けた中小企業などを支援するための補助金制度です。具体的には、ポストコロナを見据えた新しいビジネスモデルの構築や生産プロセスの再編に要する設備投資などの経費を一部補助します。中小企業などの事業再構築支援を目的とした制度です。
事業再構築の定義
事業再構築とは、中小企業などが新しい需要を取り込むために取り組む以下の事業活動を指します。
- 新市場進出
- 事業転換
- 事業再編
- 業種転換
- 国内回帰または地域サプライチェーン維持・強靱化
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 新分野の事業活動への展開
- 従来の事業活動における新サービスの付加
- 生産プロセス・サービス提供方式の変更
単なる生産・営業活動の再開ではなく、新たな付加価値を創出するための抜本的な事業再構築が必要です。
事業再構築補助金の採択率
事業再構築補助金は申請企業の事業計画の内容を厳格に審査し、一定の要件を満たす、優れた案件のみが採択されます。過去の実績を見ると、採択率は決して高くはありません。直近の第11回公募分に関して応募件数と採択件数が公表されており、以下のとおりです。
- 応募件数:9,207件
- 採択件数:2,437件
上記の数値から計算すると、採択率は26.5%となっています。4社に1社程度の割合であるため、事前資料の準備など審査通過に向けた入念な準備が必要です。
採択されるためには、事業計画の新規性・成長性・収益性などを高く評価されることが重要です。単に従来の事業を継続するだけでは不十分で、ポストコロナを見据えた抜本的な事業転換や新しいビジネスモデルの構築が求められます。限られた予算枠の中で、より優れた事業計画を有する企業が選ばれる厳しい競争となっているのが実情です。
事業再構築補助金に採択されるためのコツ8選
事業再構築補助金は、優れた事業計画を有する中小企業などが採択される厳しい競争となっています。採択されるためには、以下のコツを意識することが重要です。
事業再構築補助金を申請する際は、上記ポイントを意識して資料を作成しましょう。
目安のページ数は最大限活用する
事業計画書の作成にあたっては、求められている目安のページ数を最大限に活用することをおすすめします。公募要領では、事業計画書のページ数について以下のように言及されています。
A4サイズで計15ページ以内(補助金額1,500万円以下の場合は計10ページ以内)での作成にご協力ください。記載の分量で採否を判断するものではありませんが、1~4の項目について明示的に記載されていない場合には不採択となります。
1:補助事業の具体的取組内容
引用:公募要領|事業再構築補助金
2:将来の展望(事業化に向けて想定している市場および期待される効果)
3:本事業で取得する主な資産
4:収益計画
A4サイズで10ページ〜15ページ以内と指定されていますが、簡潔過ぎると事業内容として不十分に映る可能性があります。必要な情報を網羅した上で、指定されたページ数を最大限活用して丁寧な記述を心がけましょう。
自社の現状を明記する
事業計画書の冒頭では、自社の現在の経営状況や課題を率直に明記することが重要です。単に「コロナ禍で売上が減少した」といった表面的な記述では十分ではありません。具体的な数値データを示しながら、自社が置かれている厳しい現状を丁寧に説明する必要があります。
特に自社の現状については、コロナ禍の影響について重点的に記載することをおすすめします。審査項目として、以下の基準が設けられているためです。
「本補助金を活用して新たに取り組む事業の内容が、ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応した、感染症などの危機に強い事業になっているか。」
引用:公募要領|事業再構築補助金
現状を正確に認識した上で、どのような課題解決や事業再構築を行うのかを論理的に記述しましょう。審査員の理解と共感を得られやすくなります。
課題解決方法・代替案を論理的に説明する
自社が直面している経営課題や問題点を整理した上で、「どのように解決して事業再構築を実現するのか」を論理的かつ具体的に説明することが重要です。単に「新しい事業に取り組む」といった抽象的な記述ではなく、課題解決に向けた具体的な方策・複数の代替案について詳しく記載する必要があります。例えば、以下のように自社が取り組もうとしている施策の内容を丁寧に説明します。
- 従来の製造ラインを見直し、コストダウンを図る
- 新商品の開発により新規市場を開拓する
- ECサイトの構築によりオンライン販売を強化する
さらに、施策の必要性・期待される効果・実現に向けたプロセスや手順・所要費用の概算など、できる限り具体的な情報を盛り込むことが重要です。審査員に対して事業計画の合理性と実現可能性を確信させられれば、高評価につながります。
補助対象事業の取り組み内容・効果を明記する
事業再構築補助金の補助対象となる具体的な取り組み内容・もたらされる効果について、詳しく記載することが求められます。建物や設備の投資計画、新商品・新サービスの開発など、自社が実施を予定している施策を列記し、内容と期待される効果を具体的に説明しましょう。
また、設備導入を伴う場合は、設備がどのように製品の付加価値向上・生産性の改善につながるのかについても詳しく記述することが重要です。審査員には、補助金でどのような事業再構築を実現するのかを正確に理解してもらう必要があります。
競合他社への優位性を示す
事業計画書の中で、自社と競合する他社に対する優位性について言及することも重要なポイントです。公募要領では競合との差別化も審査項目となっています。
競合分析を実施した上で、顧客ニーズを基に、競合他社と比較して、自社に明確な優位性を確立する差別化が可能か。
引用:公募要領|事業再構築補助金
同業他社と比べて、「自社商品・サービスがどのような強み・特徴を有しているのか」「顧客にどのような価値を提供できるのか」を具体的に示せば、事業の成長可能性が高いとアピールできます。
例えば、「独自の技術力を活かした高付加価値製品」など自社のもつ強みを簡潔に列記し、根拠となるデータや事例を添えると説得力が増します。さらに、競合他社との具体的な差別化ポイントについても言及しておきましょう。自社の優位性が明確に示されていれば、審査員も事業の将来性を高く評価してくれるはずです。
収益が出せる・投資を回収できる点をアピールする
事業計画書の中では、補助金を活用した設備投資などでどの程度の収益が見込まれるのかを具体的に示すことが重要です。単なる設備導入・人員増強ではなく、投資によってどれくらいの売上増加やコストダウンが期待できるのか具体的な数値を挙げて説明する必要があります。
また、投資に見合った適切な回収期間を設定して根拠もあわせて示しましょう。例えば、「新製造ラインの導入により、年間売上が○○%アップし、投資額は○年で回収できる」などと言及します。具体的な数値と前提条件を明記すれば、審査員に事業計画の実現可能性と収益性を理解してもらえます。
さらに、投資の効果が現れるまでの間の資金繰りの見通しについても触れておきましょう。一時的な営業赤字が見込まれる場合は、対策についても言及します。的確な収支計画と資金調達方法を示すことができれば、事業の継続性が高いと評価されやすくなります。
財務の健全性について触れる
補助金審査では公募要領で以下のように言及されているとおり、申請企業の財務状況についても確認が行われます。
最近の財務状況などから、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。金融機関などからの十分な資金の調達が見込めるか。
引用:公募要領|事業再構築補助金
事業計画書の中で、自社の財務健全性について一定程度触れておく必要があります。直近の決算データ・債務超過の有無・資金繰り状況など、自社の財務状況を簡潔に説明しましょう。
財務上の課題がある場合は理由と改善策をあわせて示せば、審査員の理解が得られやすくなります。また、事業再構築に伴い財務体質が改善される見通しの場合、具体的な数値を交えて説明しましょう。
財務データは、事業の持続可能性を判断する上で非常に重要な要素です。申請企業の財務基盤が健全であり、補助事業の実施が可能であることを審査員に示せれば、高評価につながります。
市場動向・顧客獲得方法を説明する
補助事業の実施でいかに収益を確保していくのかという点では、市場動向や顧客獲得方法についての説明も欠かせません。市場の成長性が高いほど、事業の将来性が有望であると評価されます。実際に新規事業の有望性について、公募要領では以下のように審査項目として設定しています。
補助事業で取り組む新規事業が、自社がアプローチ可能な範囲の中で、継続的に売上・ 利益を確保できるだけの規模を有しているか。成長が見込まれる市場か。
引用:公募要領|事業再構築補助金
まず、事業を行おうとする市場の現状と将来の見通しについて、具体的なデータを示しながら説明する必要があります。また、市場に対して自社がどのように顧客を獲得していくのかについても詳しく記載しましょう。具体的な営業・マーケティング施策、販路開拓の計画や顧客管理の方針など顧客獲得に向けた戦略を丁寧に説明することが重要です。
さらに、想定する主要な顧客層・ターゲットとする地域などの情報を加えれば、顧客獲得の現実性が高まります。市場とのフィット感が高く、確実に顧客を獲得できるビジネスモデルであると審査員に示せれば事業計画の評価が上がるはずです。
事業再構築補助金の活用イメージ
事業再構築補助金は、コロナ禍の影響で事業の継続が困難となった中小企業などが、新たな市場や需要を取り込むための大胆な事業再構築に活用できます。具体的には、製造業者であれば生産ラインの改修・新規設備の導入など、ビジネスモデルの転換に必要な投資に補助金を充当可能です。また、サービス業・小売業においてはECサイトの構築・無人化の推進など、新しい事業スタイルへの転換に向けた投資に活用できます。
付加価値の高い新商品・サービスの開発や新規事業への進出など、企業の抜本的な事業再構築に資する取り組みが対象となります。単なる営業再開や人件費の支払いといった使途では、補助金の採択は難しいです。事業再構築には多額の投資が必要ですが、補助金を最大限活用すればリスクを抑えつつ新たな事業機会を切り開けます。
事業再構築補助金の採択事例
事業再構築補助金には、さまざまな業種・業態の中小企業などから多数の申請があり、優れた事業計画を有する企業が採択されています。以下では、実際に採択された2社の事例を紹介します。
株式会社ヒイズル
株式会社ヒイズルは、福岡県を拠点に飲食サービス業を営む企業です。コロナ禍を契機に団体客での利用が減少し、大幅に売上が減少していた点が課題でした。
地域ブランドである筑穂牛の生産者が減少していた背景もあり、畜産事業に参入を決意します。仔牛の購入費用に充てるため、事業再構築補助金を申請したのが経緯です。
1回目の申請は不採択となりましたが、事業計画を見直して再度挑戦します。筑穂牛のブランド力を強化し、ECサイト・ホテルのニーズを取り込む形で全国展開する成長戦略が評価され、2度目の申請で採択されています。
参考:「事業再構築補助金」採択・支援事例のご紹介|九州経済産業局
株式会社藤田ワークス
株式会社藤田ワークスは、少量多品種の板金部品製造事業を営む鹿児島県の企業です。半導体製造関連事業が売上の多く占めていました。しかし、コロナの影響で新たな営業先への訪問ができなくなるなどの影響を受けたため、リスク回避の点から他事業でも売上を伸ばしていく必要性を感じていました。
そこで、レーザー加工設備の導入による新事業の進出に向けて事業再構築補助金を申請した流れです。今まで外注していた切削加工が自社でできるようになり、鉄道車両事業の新規受注を見込んでいます。
参考:「事業再構築補助金」採択・支援事例のご紹介|九州経済産業局
事業再構築補助金の申請には多くの準備が必要
事業再構築補助金の申請は、決して簡単なプロセスではありません。採択されるためには、多くの準備と入念な事前調査が求められます。
申請に先立って行うべきは、自社の現状と課題を正確に分析し、事業再構築の必要性を明確にすることです。「コロナ禍の影響によりどのような問題が生じているのか」「解決するためには何が必要なのか」を整理する必要があります。
次に、新たな事業への取り組み内容や期待される効果について具体的な計画を立てましょう。市場動向の調査・競合分析・収支計画の策定など、事業の実現可能性と採算性を裏付ける詳細な資料作成が求められます。
さらに、申請書類の作成にあたっては求められている記入項目に対して、簡潔かつ明確な説明を心がける必要があります。特に重要なポイントは、事業再構築の必要性・投資計画の合理性・収益の見込み・自社の優位性などを論理的かつ具体的に記述する点です。
加えて、申請に必要な書類を漏れなく準備し、期限に遅れることのないよう細心の注意を払う必要もあります。求められる添付書類は多岐にわたり、財務資料から市場調査データまで幅広い資料の収集が不可欠です。
事業再構築補助金の申請には多大な労力を要しますが、申請書類の質が高ければ高いほど採択される可能性は高まります。丁寧な事前準備を行うことが何より重要です。
キャリアアップ助成金・両立支援など助成金など人材支援の助成金活用も大切
事業再構築にあたっては設備投資や新商品開発などのハード面での取り組みに加え、人材育成やワークライフバランス支援など従業員への投資も重要な要素です。人材支援の取り組みには国や自治体からさまざまな助成金が用意されているため、積極的に活用することが推奨されます。人材支援で代表的な助成金は、以下の2つです。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用者の正社員化・処遇改善などキャリアアップの取り組みにかかる費用の一部を助成する制度です。事業再構築に伴う新しい業務への従事を円滑に行うため、従業員の能力開発を支援する制度として活用できます。
また、両立支援等助成金は育児・介護と仕事の両立を支援する制度です。事業再構築に伴い業務が増える中、従業員のワークライフバランスを保つための環境整備に活用できます。テレワーク・フレックスタイム制の導入など、多様な働き方を実現するための経費に対して助成が受けられます。
人材への投資は、事業再構築の成否を左右する重要な要素です。設備投資とあわせて、助成金を活用した人材育成やワークライフバランス支援に取り組めば、企業の成長力を一層高められます。有能な人材の確保と定着を図りながら、持続的な事業発展を目指すことが大切です。
まとめ
事業再構築補助金は、コロナ禍で打撃を受けた中小企業などの事業転換や新分野展開を支援する国の重要な制度です。しかし、採択されるためには優れた事業計画と綿密な準備が不可欠です。事業再構築の必要性・新規事業の具体的内容・収益計画・自社の優位性など、審査員に確信をもたせる丁寧な説明が求められます。
一方で、設備投資だけでなく人材育成やワークライフバランス支援など、従業員への投資も重視すべきです。事業再構築はリスクを伴いますが、補助金を最大限活用すればポストコロナに向けた大胆な挑戦が可能となります。事業再構築補助金を活用し、自社の経営安定化を図りましょう。
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