助成金や補助金は事業を成長させる心強い支援制度ですが、一方で不正受給に関する問題も後を絶ちません。「少しくらいなら…」という軽い気持ちで不正に手を染めると、発覚時には返還義務だけでなく加算金・法的制裁・企業の信用失墜など大きな代償を払うこととなります。知らないうちに不正とみなされるケースもあるため、助成金・補助金に関して正しい知識をもつことが何より大切です。
本記事では、助成金・補助金における不正受給の具体例やリスク、万が一発覚した場合の対処法までわかりやすく解説します。本記事を読めば、助成金・補助金の不正受給を未然に防げるとともに、万が一社内で発覚しても迅速に対処できます。助成金・補助金の不正受給を防げるよう、従業員教育や内部通報制度の整備などの対策を進めましょう。
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目次
助成金・補助金の不正受給とは

助成金・補助金の不正受給とは虚偽の申請や架空の経費計上などにより、本来受け取る資格のない資金を不正に取得する行為です。具体的には、以下のようなケースが助成金・補助金の不正受給に該当します。
- 実際には雇用していない従業員の名義を使って助成金を申請
- 同じ経費に対して複数の補助金を重複して受け取る二重受給
上記のような不正行為が発覚した場合、受給した金額の全額返還に加えて延滞金・違約金の請求、企業名の公表など厳しい罰則が科される可能性があります。例えば、2025年1月にはIT導入補助金に関する多数の不正受給事案が明らかになり、関係者への調査や返還請求がおこなわれています。
参考:IT導入補助金の不正受給等に関する調査を実施しています|中小企業庁
助成金・補助金の不正受給は数多く報告されている
助成金・補助金の不正受給は、近年多くの事例が報告されています。例えば、持続化給付金では、2025年1月31日時点で2,369件の不正受給が認定され、不正受給総額は約24億1,412万円に上る状況です。また、雇用調整助成金に関しては2023年12月31日までに累計919件の不正受給が公表され、取り消された助成金総額は約284億7,621万円に達しています。
さらに、家賃支援給付金では、2025年1月31日時点で1,350件の返還が完了し、返還済み金額は約12億1,700万円となっています。 上記のように数多くの助成金・補助金で不正受給に該当する事案が報告されており、政府では調査を強化して自主返還を促している状況です。
参考:持続化給付金の不正受給者の認定および公表について|経済産業省
参考:「雇用調整助成金」の不正受給公表 累計919件コロナ禍で打撃の飲食業、宿泊業などサービス業他が最多|東京商工リサーチ
参考:不正受給および自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金・一時支援金・月次支援金・事業復活支援金)|経済産業省
助成金・補助金の不正受給として認定される主な事例
助成金・補助金の不正受給として認定される主な事例として、以下の4つがあげられます。
不正受給行為が発覚した場合は受給金額の返還だけでなく罰金や刑事罰、企業名の公表など社会的信用を失う重大な結果を招く可能性があります。
虚偽申請・虚偽報告
虚偽申請・虚偽報告とは実際には存在しない事業内容や経費を申請書類に記載し、助成金・補助金を不正に受け取る行為です。例えば、実際にはおこなっていない研修やセミナーを実施したと偽り、助成金・補助金を申請するケースが該当します。
また、架空の取引先との契約書・請求書を作成し、あたかも正当な取引があったかのように装う手口も見られます。虚偽申請・虚偽報告による不正受給は詐欺罪に該当し、刑事罰の対象となる可能性が高いため、絶対におこなってはなりません。
経費の水増し・架空計上
経費の水増し・架空計上とは実際の支出額よりも多くの金額を計上したり、存在しない経費を計上したりして助成金・補助金を多く受け取る行為です。例えば、以下のようなケースが経費の水増し・架空計上による不正受給に該当します。
- 10万円の設備を購入したにもかかわらず20万円と偽って申請
- 実際には購入していない備品の費用を計上して申請
経費の水増し・架空計上のような不正は会計帳簿や領収書の改ざんを伴うケースが多く、発覚した場合には重い罰則が科される可能性があります。
架空の従業員名義で申請
架空の従業員名義で申請する行為は存在しない従業員を雇用したと偽り、人件費を助成金・補助金の対象経費として申請する不正行為です。例えば、実際には雇用していない親族や友人の名義を使って給与を支払ったと装い、給与分の助成金を受け取るケースが該当します。架空の従業員名義での申請は雇用保険や社会保険の虚偽加入を伴うケースがあり、社会保険労務士法や労働基準法などの法令違反も伴います。
二重申請・受給
二重申請・受給とは、同一の事業や経費に対して複数の助成金・補助金を重複して申請・受給する行為です。例えば、同じ設備投資に対して国の補助金と地方自治体の助成金の両方に申請し、二重に受給するケースが該当します。
多くの助成金・補助金制度では他の公的支援との併用を禁止している場合があり、違反すると不正受給とみなされます。助成金・補助金を申請する前に各制度の要件を十分に確認し、二重申請・受給とならないよう適切な手続きをおこないましょう。
助成金・補助金を不正受給するリスク

助成金や補助金の不正受給は企業にとって重大なリスクを伴い、不正が発覚した場合は以下のような罰則や影響が考えられます。
リスクの種類 | 内容 |
法的罰則 | 補助金適正化法に基づき、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性がある。 |
返還義務 | 不正受給が判明すると受給した全額の返還が求められ、加算金や延滞金が加算されるケースがある。 |
社会的信用の失墜 | 企業名の公表や報道によって取引先・顧客からの信頼を失い、事業継続に支障をきたす恐れがある。 |
刑事告発のリスク | 悪質なケースでは詐欺罪などで刑事告発され、さらに重い刑罰が科される可能性がある。 |
上記のリスクを避けるためにも、助成金や補助金の申請・使用においては法令を遵守し、適正な手続きをおこなうことが不可欠です。
助成金・補助金の不正受給が発覚する経路
不正受給はさまざまな経路で発覚し、主なものとして以下があげられます。
助成金・補助金の不正受給が発覚する経路 | 詳細 |
労働局からの抜き打ち調査 | 労働局の審査官や監査官が、事業所に対して予告なしの実地調査をおこなうケースがある。 |
従業員からの内部告発 | 従業員が不正を察知し、労働局や関係機関に通報して発覚する場合がある。 |
申請書類のチェック | 申請書類の内容と実際の状況に矛盾がないか、助成金・補助金の審査担当者が詳細に確認して発覚するケースがある。 |
他の助成金とのデータ照合 | 別の助成金・補助金の申請内容と比較し、重複や矛盾がないかを確認して発覚する場合がある。 |
上記の経路を通じて、助成金・補助金の不正受給は高い確率で発覚します。
不正受給は補助金適正化法違反として罰則が適用される

助成金や補助金の不正受給は、補助金適正化法違反として厳しい罰則が適用されます。以下に、不正受給および目的外使用に関する罰則について詳しく解説します。
補助金の不正受給で受ける罰則
補助金適正化法第29条では虚偽や他の不正な手段により補助金を受給した場合、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、もしくは両方が科されると定められています。
第二十九条 偽りその他不正の手段により補助金などの交付を受け、または間接補助金などの交付もしくは融通を受けた者は、五年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
引用:補助金等にかかる予算の執行の適正化に関する法律|e-Gov 法令検索
さらに、不正受給が発覚した場合は受給した補助金の全額返還に加え、年10.95%の加算金や延滞金の支払いが求められるケースもあります。
補助金の目的外使用で受ける罰則
補助金を本来の目的以外に使用した場合も、補助金適正化法に基づく罰則の対象です。具体的には3年以下の懲役または50万円以下の罰金、もしくは両方が科される可能性があります。
第三十条 補助金などの他の用途への使用または間接補助金などの他の用途への使用をした者は、三年以下の懲役もしくは五十万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
引用:補助金等にかかる予算の執行の適正化に関する法律|e-Gov 法令検索
目的外使用とは、補助金を申請した際の計画とは異なる用途に資金を流用する行為です。例えば、設備導入のために受給した補助金を従業員の給与支払いに充てるなどが該当します。
目的外使用が発覚した場合、補助金の交付決定が取り消されて既に受給した金額の返還が求められるだけでなく、加算金や延滞金の支払い義務も生じます。悪質な場合には刑事告発されるリスクもあり、企業の社会的信用を著しく損なう可能性が高いです。
不正受給が発覚した場合は早期に自主返還をおこなう

助成金や補助金の不正受給が発覚した場合、速やかに自主返還をおこないましょう。経済産業省によれば、中小企業庁が調査を開始する前に自主返還の申し出をおこない、手続きが完了した場合は原則として加算金・延滞金は課されないとのことです。
一方、調査開始後に不正が判明した場合、受給額の全額返還に加えて年3%の延滞金や受給額の20%に相当する加算金が請求される可能性があります。 さらに、悪質なケースでは、事業者名の公表や刑事告発などの厳しい措置が取られるケースもあります。不正受給に心当たりがある場合は、被害を抑えるためにも早期に自主返還の手続きをおこないましょう。
参考:不正受給および自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金・一時支援金・月次支援金・事業復活支援金)|経済産業省
助成金・補助金の不正受給を相談できる先

助成金や補助金の不正受給に関する相談は、管轄の事務局・労働局にまず連絡しましょう。例えば、持続化給付金や家賃支援給付金などに関するお問い合わせは、経済産業省が設置している「各種給付金事業コールセンター」が対応しています。
「各種給付金事業コールセンター」の受付時間は平日の9時から17時までで、電話番号は0120-002-678です。また、事務局・労働局以外にも弁護士に相談すれば、返還手続きの代理や法的アドバイスを受けることが可能です。
まとめ
助成金・補助金の不正受給は、制度を悪用して本来受け取る資格のない資金を得る行為です。虚偽申請や経費の水増し、架空の従業員名義での申請、二重受給などが不正受給の代表的な事例です。
不正受給が発覚すると受給額の返還に加え、指定の延滞金や加算金が課されます。さらに、悪質な場合は補助金適正化法に基づき5年以下の懲役や100万円以下の罰金が科されるケースもあります。
自主返還を早期におこなえば、加算金の免除などの措置が取られる場合もあるため、早めに事務局・労働局に連絡しましょう。今回の内容を参考に、助成金・補助金の不正受給を未然に防げるよう社内体制の整備を進めましょう。
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