財務省が2024年9月4日に令和7年度の概算要求を発表し、厚生労働省の予算も公表されました。厚生労働省は助成金を多く提供しているため、令和7年度の予算の割り振りが気になる企業も多いでしょう。
令和7年度の厚生労働省予算概算要求は、34兆2,763億円と過去最高額に達しています。前年よりも金額が拡充されている助成金もあり、申請する企業はぜひチェックしておきたいところです。
今回は、令和7年度厚生労働省予算概算要求の概要を紹介します。本記事を読めば、厚生労働省の概算要求の中身を理解して、どのような助成金が利用できるかが分かります。助成金の中身を理解し、公募が開始した際にスムーズに申請できるよう準備しておきましょう。
自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
目次
概算要求とは
概算要求は、国の各省庁が次年の予算案を作成するために行うプロセスです。各省庁が必要とする予算の概算を財務省に提出し、国の政策や事業の実施に必要な資金を要求する手続きです。概算要求は国の予算編成の第一歩であり、政府の優先事項や方針を反映する重要な機会となります。
概算要求を通じて各省庁は自らの政策目標や事業計画を具体的な数字で示し、必要性や効果を説明します。財務省は各省庁の要求を精査し、国全体の財政状況や政策の優先順位を考慮しながら予算案の調整を行う流れです。
概算要求は、国民生活に直接影響を与える政策や事業の方向性を決定する重要な過程となります。国の財政運営の透明性と効率性を確保する上で欠かせない手続きです。
概算要求は毎年8月下旬に行われる
概算要求は、毎年8月下旬のタイミングで行われます。概算要求が提出された後は、9月~12月にかけて財務省が予算編成作業にとりかかる流れです。各省庁と財務省が、事業の必要性や予算額をめぐって議論を行います。
調整が済んだ段階で財務省が予算案をまとめ、12月中旬頃に財務省案として各省庁に内示します。内示をおこなった後、政府が予算案を最終調整して閣議決定し、年明けから始まる通常国会で政府予算案として提出される流れです。国会で予算案が可決されれば、翌年の4月から実際に予算が執行されます。
令和7年度は全体117兆6,059億円
財務省は2024年9月4日に令和7年度(2025年)の概算要求を発表し、総額が117兆6,059億円と公表されました。前年予算額が111兆717億円であったため、6兆5,343億円の増額となっています。各省庁の具体的な内訳は、以下表の通りです。
所管 | 前年予算額(億円) | 令和7年度概算要求額合(億円) | 前年からの増減比(億円) |
皇室費 | 101 | 67 | -35 |
国会 | 1,300 | 1,343 | 43 |
裁判所 | 3,310 | 3,479 | 170 |
会計検査院 | 163 | 168 | 5 |
内閣 | 1,115 | 1,381 | 267 |
内閣府 | 50,671 | 52,512 | 1,840 |
デジタル庁 | 4,964 | 5,960 | 996 |
総務省 | 182,107 | 188,327 | 6,221 |
法務省 | 7,405 | 7,830 | 425 |
外務省 | 7,257 | 8,138 | 881 |
財務省 | 17,687 | 18,460 | 773 |
文部科学省 | 53,384 | 59,530 | 6,146 |
厚生労働省 | 338,191 | 342,763 | 4,573 |
農林水産省 | 20,933 | 24,339 | 3,406 |
経済産業省 | 8,695 | 11,372 | 2,676 |
国土交通省 | 60,965 | 71,971 | 11,006 |
環境省 | 3,207 | 4,258 | 1,051 |
防衛省 | 79,172 | 85,045 | 5,874 |
国債費 | 270,090 | 289,116 | 19,026 |
合計 | 1,110,717 | 1,176,059 | 65,343 |
基本的にどの省庁も前年の要求額と比較して増加傾向にあり、日本が直面するさまざまな課題における対応の必要性を示しています。例えば、少子高齢化対策、防災・減災対策、デジタル化の推進、環境問題への取り組み等多岐にわたる分野で予算が必要とされていることが背景です。
一方で、財政健全化との両立という難しい課題にも直面しています。日本の債務残高がGDPの2倍を超える現状で、いかにして必要な政策を実行しつつ財政の持続可能性を確保するかが大きな課題です。
令和7年度厚生労働省予算概算要求は令和6年度よりも4,574億円増で過去最高額
令和7年度(2025年)の厚生労働省予算概算要求は、34兆2,763億円です。令和6年度(2024年)より4,574億円増加しており、過去最高額を記録しています。令和7年度厚生労働省予算概算要求の具体的な内訳は、以下表の通りです。
区分 | 令和7年度概算要求額(億円) |
年⾦・医療等にかかる経費 | 324,375 |
重要政策推進費 | 1,508 |
合計 | 342,763 |
年⾦・医療等にかかる経費が32兆4,375億円と大半を占める中、重要政策推進費として1,508億円計上されています。前年よりも予算が増加している要因は、高齢化の進展に伴う医療・介護需要の増加、少子化対策の強化、働き方改革の推進等多岐にわたる社会課題に対応するためです。
令和7年度厚生労働省予算概算要求の主要事業は大きく3つのジャンルに分かれる
令和7年度(2025年)の厚生労働省予算概算要求は日本社会が直面する重要課題に対応するため、以下3つの主要なジャンルに焦点を当てています。
少⼦⾼齢化・⼈⼝減少時代にあっても、国⺠⼀⼈ひとりが安⼼して⽣涯活躍できる社会の実現に向けた施策を立案しています。各ジャンルの主要な施策について、詳しく見ていきましょう。
①全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築
全世代型社会保障の実現は、日本の社会保障制度を持続可能なものにするための重要な取り組みです。従来の社会保障から、すべての世代を対象とした包括的な制度への転換を目指しています。具体的には、以下の施策を立案して概算要求をおこなっています。
施策名 | 概要 | 金額 |
創薬⼒強化に向けたイノベーションの推進と医薬品等の安定供給確保 | ドラッグラグ・ロスの解消に向けて、有望シーズの実⽤化促進・研究開発環境の整備による創薬⼒の抜本的強化を図るとともに、医薬品等の安定的な供給を実現 | 792億円 |
医療・介護におけるDX、地域医療・介護の基盤強化の推進等 | 〇医療・介護におけるDXの推進等で、⽣産性の向上を図るとともに、安⼼で質の⾼い医療・介護サービスの提供を図る 〇⾼齢化の更なる進展や⼈⼝減少に対応するため、限りある資源を有効に活⽤しながら、質の⾼い効率的な医療・介護サービスの提供体制を確保する 〇地域医療構想の推進や地域包括ケアシステムの構築等に向けた施策を推進する | 3,926億円 |
国際保健への戦略的取組、感染症対策の体制強化 | 〇⽇本の知⾒を活かし、国際保健分野においてリーダーシップを発揮できるよう戦略的に取り組む 〇感染症における対応として国⽴健康危機管理研究機構を創設し、研究・⼈材育成等の体制を強化する | 400億円 |
予防・重症化予防、⼥性の健康づくり、認知症施策の推進等 | 〇⽣涯活躍社会の実現に向け、健康づくり・予防・重症化予防を推進する⼥性健康⽀援の総合対策、認知症施策を総合的・計画的に取り組む 〇がん・肝炎・難病等の各種疾病対策を実施するとともに、⻭科保健医療を推進する | 2,547億円 |
安定的で持続可能な医療保険制度の運営確保 | 〇各医療保険制度に関する医療費 〇国庫負担国⺠健康保険への財政⽀援 〇被⽤者保険への財政⽀援 | 10兆7,850億円 |
金額ベースで見ると、保健医療制度の医療費負担が大きな割合を占めています。他にも、医療DX・地域医療の拡充や難病・移植医療対策に多額の予算が割り当てられています。
②持続的・構造的な賃上げに向けた三位⼀体の労働市場改⾰の推進と多様な⼈材の活躍促進
持続的・構造的な賃上げを実現して労働市場を活性化させることは、日本経済の成長と国民生活の向上に不可欠です。目標を達成するために、厚生労働省は「三位⼀体の労働市場改⾰」を推進しています。具体的には、以下の施策を立案しています。
施策名 | 概要 | 金額 |
最低賃⾦・賃⾦の引上げに向けた⽀援、⾮正規雇⽤労働者への⽀援等 | 賃上げを起点とした所得と⽣産性の向上を図るため、最低賃⾦や賃⾦の引上げに向けた中⼩企業・⼩規模事業者の⽣産性向上の取り組みへの⽀援や、⾮正規雇⽤労働者への⽀援等をおこなう | 366億円 |
リスキリング、ジョブ型⼈事(職務給)の導⼊、労働移動の円滑化 | 持続的・構造的な賃上げを実現するため、三位⼀体の労働市場改⾰を進める全世代を対象としたリスキリングによる能⼒向上⽀援、個々の企業の実態に応じたジョブ型⼈事の導⼊、成⻑分野における労働移動の円滑化を促進する | 1,695億円 |
⼈材確保の⽀援の推進 | ⼈⼿不⾜分野等における⼈材確保を推進するとともに、⾼齢者の社会参加、外国⼈材の就職⽀援等による⼈⼿不⾜解消に向けた取り組みを推進する | 425億円 |
多様な⼈材の活躍促進と職場環境改善に向けた取り組み | 〇障害者や⾼齢者等の多様な⼈材が能⼒を発揮しつつ、安⼼して働き続けられる環境の整備を進める 〇さまざまなライフステージに応じた働き⽅を選択し、意欲に応じて活躍できる社会の実現に向けた取り組みをおこなう | 3,405億3,000万円 |
⼥性の活躍促進 | ⼥性の活躍促進を⽀えるため、男⼥間賃⾦格差の是正、⼦育て中の⼥性に対する就労⽀援等に取り組む | 49億円 |
特に、リスキリング・ジョブ型雇用の導入や就労支援・ワークライフバランスの促進に多くの予算を割いている点が特徴です。
③⼀⼈⼀⼈が⽣きがいや役割を持つ包摂的な社会の実現
包摂的な社会の実現は、すべての人々が社会に参加し、自己実現の機会を得られる環境を作ることを目指しています。社会的孤立や格差の解消、多様性の尊重や個人の尊厳の保護を重視する施策です。具体的には、以下の施策を立案して概算要求をおこなっています。
施策名 | 概要 | 金額 |
地域共⽣社会の実現等 | 〇誰もが⽣きがいや役割を持ち、助け合いながら暮らせる包摂的な共⽣社会づくりを推進する 〇⽣活困窮者への⽀援、障害者⽀援の推進、困難な問題を抱える⼥性等に向けた⽀援体制の強化に取り組む 〇⾃殺対策、孤独・孤⽴対策を推進し、地域の実情に応じた共⽣社会の実現に向けた取り組みを推進する | 1兆8,709億8,000万円 |
戦没者の慰霊・戦没者遺族等の援護の推進 | 〇戦後80周年関連事業現地調査・遺⾻収集の計画的実施 〇戦没者遺⾻の鑑定等に関する体制整備 | 54億円 |
安⼼できる年⾦制度の確⽴ | 持続可能で安⼼できる年⾦制度の運営 | 13兆3,932億円 |
被災者・被災施設の⽀援等 | 被災者・被災施設の⽀援、雇⽤の確保、原⼦⼒災害からの復興への⽀援等 | 105億円 |
金額としては、大部分が年金の運営費用に割り当てられています。他にも、障害者支援対策に1兆円以上の多額の予算が組み込まれている点が特徴です。
令和7年度厚生労働省予算概算要求で計画される「賃上げ」支援助成金パッケージ|助成金一覧
助成金関連の話題としては、「賃上げ」支援助成金パッケージが挙げられます。生産性向上や正規・非正規の格差是正を通じた賃上げの支援に多くの予算を割り当てている点が特徴です。具体的には、以下の助成金制度が立案されています。
施策名 | 概要 | 前年からの拡充ポイント | 金額 |
業務改善助成金 | 事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、設備投資にかかった費用の一部を助成 | 地域間格差に配慮した助成率区分等の再編支援時期等の見直し重点化 | 22億円 |
働き方改革推進支援助成金 | 労働時間削減等に向けた環境整備のために外部専門家のコンサルティング、労働能率の増進に貢献する設備・機器の導入等を実施し、改善の成果を上げた場合に助成 | 現行の賃上げ率3%〜5%の場合に加え、7%での助成強化 | 70億円 |
人材開発支援助成金 | 職務に関連した専門的な知識および技能を習得させるための職業訓練等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成 | 訓練終了後に賃上げ等した場合の賃金助成額の引き上げ | 620億円 |
人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース) | 雇用管理改善につながる制度を労働協約・就業規則を作成・変更して導入し、離職率低下を実現した事業主に対して助成 | 雇用管理制度助成コースを令和7年度から再開する際、人事評価改善等助成コースを統合の上、賃上げ(5%)を実現した場合の加算を導入 | 4億円 |
キャリアアップ助成金(正社員化コース・賃金規定等改定コース) | 〇正社員化コース:非正規雇用労働者を正社員転換し、従前よりも3%以上の賃上げを行った場合に助成 〇賃金規定等改定コース:非正規雇用労働者の基本給を定める賃金規定を3%以上増額改定し、規定を適用した場合に助成 | 〇賃金規定等改定コースにつき、賃上げ率の新たな区分を設定(2区分→4区分、賃上げ率6%以上の場合はさらに引き上げ) 〇昇給制度を新たに設けた場合の加算措置の創設 | 633億円 |
早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース・中途採用拡大コース) | 〇雇入れ支援コース:事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者を、離職後3か月以内に期間の定めのない労働者として雇い入れた上で、雇入れ前の賃金と比して5%以上上昇させた事業主に対して助成 〇中途採用拡大コース:中途採用者の雇用管理制度を整備した上で、中途採用率を一定以上向上させた場合に助成 | なし | 35億円 |
特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース) | 就労経験のない希望職業に就くことが困難な者を雇い入れ、人材育成計画を策定した上で、賃金引上げを行う事業主に対して助成 | なし | 137億円 |
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース) | 労働者のスキルアップを在籍型出向で行うとともに、出向から復帰した際または出向開始1年後等の賃金を出向前と比して5%以上上昇させた事業主に対し、出向中の賃金の一部を助成 | なし | 27億円 |
業務改善助成金・働き方改革推進支援助成金等、前年よりも助成金額が拡充されている制度もあります。上記の助成金の利用を検討している企業は、公募要領をチェックしておきましょう。
また、上記以外にも幅広い助成金制度が立案され、予算が割り振られています。詳しくは厚生労働省の令和7年度予算概算要求の主要事項から確認してください。
まとめ
令和7年度の厚生労働省予算概算要求が過去最高額を更新し、注目を集めています。全世代型社会保障の実現・持続的な賃上げに向けた労働市場改革・包摂的な社会の構築の3つの柱を中心に、日本社会の課題に総合的に取り組む姿勢が特徴です。
特に「賃上げ」支援助成金パッケージでは、多くの助成金制度が立案され予算が割り振られています。助成金の活用を考えている企業は、申請スケジュールに間に合うよう早めに公募情報を確認しておきましょう。
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