近年、IT分野を中心に新しいビジネスが多数登場する中、リスキリングが注目を集めています。リスキリングを社内で実施したいものの、経済的な負担に不安を感じる企業も多いでしょう。
政府はリスキリングを重要な政策課題として捉えており、数々の支援制度を提供しています。補助金・助成金制度を活用すれば、経済的な負担を減らしつつ効率的にリスキリングを実施可能です。
今回は、企業向けのリスキリングを支援する補助金・助成金制度一覧を紹介します。本記事を読めば、リスキリングをスムーズに自社で導入・実施できます。リスキリングを活用して、自社の人材定着・生産性向上につなげましょう。
自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる
目次
そもそもリスキリングとは?
リスキリングとは、既存スキルの向上・新しいスキルの習得で変化する社会・職場のニーズに適応する能力を高めるプロセスです。近年はテクノロジーの急速な進歩や産業構造の変化に伴い、労働市場で求められるスキルセットが急速に変化しています。上記の状況下でリスキリングの重要性が高まっており、多くの個人・企業が取り組み始めています。
リカレント教育との違い
リスキリングとリカレント教育はどちらも生涯学習の一環として重要な概念ですが、焦点や学習範囲に違いがあります。リカレント教育は、学校教育と社会人としての就労を交互に行う教育システムです。
一度社会に出た後も定期的に教育機関に戻り、新しい知識やスキルを学ぶ行為を意味します。リカレント教育の目的は、個人の総合的な能力開発・教養の向上や社会全体の知的レベルの底上げにあります。
一方、リスキリングは、より具体的かつ即時的なスキル獲得やアップグレードに焦点を当てている点が特徴です。リスキリングは、現在の仕事や将来のキャリアに直接関連するスキルの習得を目的としています。
よって、必ずしも正規の教育機関での学習を必要としません。リスキリングは、オンライン教育・職場での研修等さまざまな形式で行われるケースが多いです。
政府のリスキリング支援における方針
日本政府は急速に変化する労働市場に対応するため、リスキリング支援を重要な政策課題として位置づけています。実際に2023年6月に発行された「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画2023改訂版」では「人への投資」を軸に、産業界と連携しながら個人のリスキリングを促進する方針を示しています。
具体的にはデジタルスキルの向上や成長分野への人材シフトを重点目標とし、教育訓練給付金の拡充・オンライン学習プラットフォームの整備等を進めている点が特徴です。また、企業主導型のリスキリングプログラムへの支援や、地域の特性を活かした人材育成施策も展開しています。上記の取り組みを通じて、政府は労働者の生産性向上と企業の競争力強化を同時に実現し、持続可能な経済成長を目指しています。
リスキリング支援における補助金・助成金・給付金の違い
リスキリング支援ではさまざまな制度が展開されていますが、補助金・助成金・給付金は異なる特徴を持つ経済的支援制度です。上記の制度を正しく理解し、適切に活用すれば企業はより効果的にリスキリングを進められます。以下、補助金・助成金・給付金の特徴について詳しく見ていきましょう。
補助金
補助金とは、政府や地方自治体が特定の政策目的を達成するために個人・企業に対して交付する資金援助です。リスキリング支援における補助金は、主に教育機関や企業が実施するスキル開発プログラムの運営費用をサポートするために使用されます。
補助金の特徴は使途が明確に定められている点で、目的外使用は認められません。多くの場合、事業の一部に対する資金援助であり、受給者も一定の自己負担が求められます。リスキリング関連の補助金では、新たな職業訓練コースの開設や最新のテクノロジーを活用した学習環境の整備等に活用されるケースが多いです。
補助金を受けるために、通常は詳細な事業計画の提出や厳格な審査プロセスを経る必要があります。また、事業終了後は実績報告が求められ、目標達成度や資金の使用状況について厳密な評価が行われます。
助成金
助成金は、労働環境改善・人材育成への取り組みに対して政府や公的機関が交付する資金です。リスキリング支援における助成金は、主に企業の人材育成や従業員のスキルアップを促進するために活用されます。
リスキリング関連の助成金の具体例としては、「人材開発支援助成金」や「キャリアアップ助成金」等です。企業が従業員に対して行う教育訓練やスキルアップの取り組みを支援する制度で、業種や企業規模に応じてさまざまなメニューが用意されています。
助成金を受けるためには、事前に計画を申請し承認を得る必要があります。また、実施後の報告や証拠書類の提出も求められるため、計画的かつ適切な運用が重要です。
給付金
給付金は、個人に直接支給される金銭的支援です。リスキリング支援における給付金は、主に個人の学び直しや職業訓練を経済的にサポートすることを目的としています。
給付金の最大の特徴は、受給者が自由に使途を決定できる点です。個人のニーズや状況に合わせた柔軟なリスキリングが可能となります。例えば、オンライン講座の受講料・資格試験の受験料・必要な教材の購入費用等、幅広い用途に活用可能です。
リスキリング関連の給付金の代表例として、「教育訓練給付金」があります。厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講した場合に、費用の一部が支給される制度です。一般教育訓練給付金・専門実践教育訓練給付金・特定一般教育訓練の3種類があります。
給付金を受けるためには、一定の条件(雇用保険の加入期間等)を満たすことが必要です。また、事前に申請を行い、受講修了後に必要書類を提出する等の手続きが必要です。
リスキリングを支援する補助金・助成金制度一覧(※企業向け)
企業がリスキリングを推進するに当たり、活用できる以下の補助金・助成金制度があります。
上記の制度を効果的に利用すれば、従業員のスキルアップと企業の競争力強化を同時に実現できます。
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、経済産業省が主導する「リスキリング推進事業費補助金」の一環として実施されています。主に企業や業界団体が行うリスキリング事業の支援が目的です。補助対象となる事業は、主に以下の4分野です。
補助対象事業 | 概要 |
キャリア相談対応 | 支援を受ける個人が、民間の専門家に自らのキャリアについて相談し、これまでのキャリアの棚卸し、本支援を通じて目指すキャリアゴールの設定・スキルの棚卸し・リスキリング講座の検討等について相談を受けられる体制を構築した上で、個人に対する相談対応を行う取り組み |
リスキリング提供 | 支援を受ける個人に対するキャリア相談対応等を踏まえ、リスキリング講座を提供する取り組み |
転職支援 | 支援を受ける個人に対するキャリア相談・リスキリング講座の受講等を踏まえて、転職に向けた伴走支援や職業紹介を行う取り組み |
フォローアップ | 支援を受けた個人の転職後のフォローアップとして、転職後1年間の転職先での継続的な就業や転職に伴う賃金上昇の確認等を行う取り組み |
補助率は対象経費の1/2〜7/10となっています。また、個人がリスキリングのための講座を受講する費用も補助対象となっており、受講料の1/2(上限40万円)を支給してくれます。
高等教育機関における共同講座創造支援事業
「高等教育機関における共同講座創造支援事業」は、文部科学省が実施する補助金制度です。企業と大学等の高等教育機関が連携して、社会人向けの実践的な教育プログラムの開発・実施を支援しています。
対象となる取り組みは、主に企業のニーズに基づいた教育プログラムの開発・産学連携による新たな学習モデルの構築等です。例えば、最新の技術動向を反映したカリキュラムの作成・企業の実務者と大学教員が共同で行う講義の実施等が含まれます。
補助金の額は1事業当たり3,000万円で、補助率は1/2〜1/3です。上記の制度を活用すれば、企業は大学の持つ専門知識や研究成果を直接的に従業員教育に取り入れられます。
教育訓練給付金
教育訓練給付金は、厚生労働省が管轄する制度です。主に個人向けの支援制度ですが、企業にとっても従業員のリスキリングを促進する上で活用できる制度です。
教育訓練給付金には、一般教育訓練給付金・専門実践教育訓練給付金・特定一般教育訓練の3種類があります。各給付金の概要と補助上限額・補助率は、以下表の通りです。
教育訓練給付金の種類 | 概要 | 補助上限額 | 補助率 |
一般教育訓練給付金 | 雇用の安定・就職の促進に資する教育訓練 | 10万円 | 受講費用の20% |
専門実践教育訓練給付金 | 労働者の中長期的キャリア形成に資する教育訓練 | 40万円 | 受講費用の50% |
特定一般教育訓練 | 労働者の速やかな再就職および早期のキャリア形成に資する教育訓練 | 20万円 | 受講費用の40% |
従業員が上記制度を活用すれば、自社の負担を軽減しつつ従業員のスキルアップを図れます。また、従業員の自発的な学習意欲を高める効果も期待できます。ただし、企業は従業員に対して制度の周知や利用促進を図るとともに、業務との両立をサポートする体制を整えることが重要です。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は厚生労働省が所管する制度で、企業が従業員に対して行う教育訓練を幅広く支援するものです。人材開発支援助成金は、企業の人材育成の取り組みを直接的に後押しする助成金です。助成金の申請枠には、以下のように計6コースが存在します。
申請コース | 概要 | 助成率 | 助成額 |
人材育成支援コース | 雇用する被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練、非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成 | 45%〜100% | 1人1時間当たり380円〜960円 |
教育訓練休暇等付与コース | 有給教育訓練等制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成 | ー | 30万円〜36万円 |
人への投資促進コース | デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成 | 45%〜75% | 1人1時間当たり380円〜960円 |
事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業の立ち上げ等の事業展開等に伴い、新たな分野で必要となる知識および技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成 | 60%〜75% | 1人1時間当たり480円〜960円 |
建設労働者認定訓練コース | 認定職業訓練または指導員訓練のうち建設関連の訓練を実施した場合の訓練経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の訓練期間中の賃金の一部を助成 | ー | 1日当たり3,800円 |
建設労働者技能実習コース | 雇用する建設労働者に技能向上のための実習を有給で受講させた場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成 | 対象経費の9/20〜3/4 | ひとつの技能実習について、1人当たり10万円が上限 |
特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース )
特定求職者雇用開発助成金の成長分野等人材確保・育成コースは厚生労働省が実施する制度で、主に成長分野での人材確保と育成の支援を目的としています。
本助成金は、IT分野やグリーン分野等の成長産業で就職困難者を雇い入れ、一定期間継続して雇用する事業主に対して支給されます。また、未経験の就職困難者をハローワーク等の紹介により雇い入れて、人材育成・賃上げを行った場合も支給対象です。
助成金の額は対象労働者の類型や企業規模によって異なります。対象労働者1人当たり45万円〜360万円が支給されます。支給期間は1年〜1年6か月で、6か月ごとに2〜3回に分けて支給される流れです。
DXリスキリング助成金
DXリスキリング助成金は、デジタルトランスフォーメーション(DX)に対応するための人材育成を支援する制度です。東京都の企業が対象であり、DXを推進するために必要なデジタルスキルの習得を従業員に促す取り組みを後押しします。
対象となる教育訓練は、データ分析・AI活用・クラウドコンピューティング・サイバーセキュリティ等DXに関連する幅広い分野をカバーしています。オンライン講座や社内研修、外部機関での研修等さまざまな形式の教育訓練が対象です。助成金の上限額は1企業当たり100万円で、助成率は対象経費の3/4です。
リスキリングを効果的に実施するためのポイント
リスキリングを成功させるためには、単に制度を導入するだけでなく従業員の積極的な参加と学習成果の活用が不可欠です。以下、効果的なリスキリング実施のための重要なポイントを詳しく解説します。
上記のポイントを意識して、リスキリングによる成果向上を目指しましょう。
従業員のリスキリングに対する意識を向上させる
リスキリングの成功には従業員自身が必要性を理解し、積極的に取り組む姿勢が重要です。しかし、多くの従業員は日々の業務に追われ、新しいスキルを学ぶ時間や余裕がないと感じているケースがあります。企業側が従業員のリスキリングに対する意識を向上させるための取り組みが必要です。
まず、経営層からリスキリングの重要性を明確に伝えることが大切です。業界の動向や技術の進化に関する情報を共有し、スキルアップの必要性を具体的に説明すれば、従業員の危機感と学習意欲を喚起できます。
次に、リスキリングの成功事例を社内で共有することも効果的です。同僚の成功体験を知れば自分自身の可能性を見出し、モチベーションを高められます。
また、リスキリングを評価制度や報酬制度と連動させることも有効です。新しいスキルの習得や資格取得を昇進や給与アップの条件に含めれば、従業員の学習意欲を高められます。
リスキリングの成果を試す機会を設ける
リスキリングで向上・獲得したスキルを実際の業務で活用する機会を設けましょう。単に座学で学ぶだけでなく実践の場を提供すれば、リスキリングの効果を最大化できます。
まず、プロジェクトベースの学習機会を設けることが効果的です。新しいスキルを活かせる小規模なプロジェクトを立ち上げ、リスキリングに参加した従業員をアサインします。実際の業務に近い環境で新しいスキルを試せば、学習内容の定着と実践的な応用力の向上が期待できます。
また、社内での発表会や成果報告会を開催することも有効です。リスキリングで学んだ内容や業務改善のアイデアを共有する場を設ければ、学習成果の可視化と他の従業員への波及効果が期待できます。
上記の機会を通じて、従業員は学んだスキルの実践的価値を認識し、継続的な学習と成長への意欲を高められます。企業にとっても、リスキリングの投資効果を具体的に把握し、さらなる人材育成戦略の改善につなげられる点がメリットです。
まとめ
リスキリングは、急速に変化する現代社会で不可欠なスキルアップの手段であり、政府もさまざまな支援制度を設けており、企業向けの補助金・助成金、個人向けの給付金等多様な選択肢があります。
効果的なリスキリングには、従業員の意識向上と学んだスキルを実践する機会が重要です。経営層からの明確なメッセージ発信・成功事例の共有・評価制度との連動等が有効です。
また、プロジェクトベースの学習等新しいスキルを試す場を設ければ、学習効果を最大化できます。リスキリングを実施し、企業の人材定着・生産性向上を目指しましょう。
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