業務改善助成金の申請方法とは?助成条件・助成額・助成率までわかりやすく解説

務改善助成金の申請方法とは?助成条件・助成額・助成率までわかりやすく解説  

業務改善助成金とは、事業場内最低賃金を引き上げる中小企業が生産性向上のために購入する機械やシステム導入費用などの一部を助成金として受け取ることができる制度です。助成上限額は600万円、助成率は最大9/10です。
今回は業務改善助成金の申請方法について、助成条件や助成額と助成率などを含めてわかりやすく解説します。

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業務改善助成金(令和6年度版)とは

業務改善助成金の目的は、中小企業における賃上げと生産性の向上を支援することです。
業務改善助成金は助成上限額が600万円ですが、助成率は最大9/10と高いため、2022年度(2022年4月〜2023年3月)では、4,739件が申請されています。

業務改善助成金の対象となる取り組みは次の2つです。

【業務改善助成金の対象となる取り組み】

  • 事業場内最低賃金を30円以上引き上げる
  • 生産性を向上させる設備導入やコンサルティング、セミナー研修の導入など

業務改善助成金を活用することで、賃上げによるコスト上昇を生産性の向上でカバーする投資をしやすくなります。また人材育成セミナーの受講費用や生産性向上のためのコンサルティング費用などについても活用できます。

主な活用事例としてPOSレジの導入、顧客管理システムの刷新などがあり、さまざまな経営改善に活用できる助成金です。

業務改善助成金の助成額・助成率

業務改善助成金の助成額・助成率は、生産性要件を満たす場合とそうでない場合、事業場内最低賃金の引き上げ対象となる従業員数などによって細かく決められています。
助成上限額・助成率は以下の4つのステップで決まります。

【STEP1】生産性要件を満たすか
【STEP2】助成率は事業場内最低賃金によって5区分
【STEP3】賃上げ幅ごとに4つのコース
【STEP4】従業員数、特例事業者であるかによって上限額が決定

以下は下記からの引用をもとに解説します。
【引用】業務改善助成金|厚生労働省
【引用】業務改善助成金交付要領|厚生労働省

【STEP1 生産性要件】

生産性要件とは、申請前の直近事業年度の「雇用保険被保険者1名あたりの付加価値」が3年前と比べて6%以上伸びていることが条件です。
伸び率が1%以上6%未満の場合は、別途、金融機関からの事業性評価が必要となります。
生産性の計算式は以下のとおりです。

【生産性要件の計算式】

付加価値=営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課

生産性=付加価値÷雇用保険被保険者数

【STEP2 助成率】

助成率は引き上げ前の事業場内最低賃金によって以下の5区分に分かれます。

引き上げ前の事業場内最低賃金助成率
900円未満9/10
900円以上950円未満(生産性要件を満たす)9/10
900円以上950円未満(生産性要件を満たさない)4/5
950円以上(生産性要件を満たす)4/5
950円以上(生産性要件を満たさない)3/4

【STEP3 賃上げコース】

事業場内最低賃金の引き上げ幅によって以下の4コースに分かれます。

事業場内最低賃金の引き上げ予定額コース区分
30円~44円30円コース
45円~59円45円コース
60円~89円60円コース
90円以上90円コース

【STEP4 助成上限額】

最後に賃上げ対象となる従業員数と賃上げする事業場の従業員数によって助成上限額が決まります。特例事業者に該当する場合は補助上限額が異なります。

コース区分事業場内最低賃金の引き上げ対象となる従業員数事業場の従業員数
29名以下
事業場の従業員数
30名以上
30円コース1名60万円30万円
 2名~3名90万円50万円
 4名~6名100万円70万円
 7名以上120万円100万円
 特例事業者かつ
10名以上
130万円120万円
45円コース1名80万円45万円
 2名~3名110万円70万円
 4名~6名140万円100万円
 7名以上160万円150万円
 特例事業者かつ
10名以上
180万円180万円
60円コース1名110万円60万円
 2名~3名160万円90万円
 4名~6名190万円150万円
 7名以上230万円230万円
 特例事業者かつ
10名以上
300万円300万円
90円コース1名170万円90万円
 2名~3名240万円150万円
 4名~6名290万円270万円
 7名以上450万円450万円
 特例事業者かつ
10名以上
600万円600万円

上記の「特例事業者」とは以下の2つの要件のいずれかを満たす場合です。
要件によって助成上限額の拡大と助成対象経費範囲の拡大の、2つの特例のいずれかまたは両方が認められます。

要件名要件の内容助成上限額
の拡大
助成対象経費の
範囲の拡大
賃金
要件
事業場内最低賃金が 950 円未満〇(対象)×(非対象)
物価
高騰等要件
原材料費の高騰などにより、最近3か月間のうち任意の1か月の売上高総利益率または売上高営業利益率が、前年同月と比べて3%ポイント以上低下〇(対象)〇(対象)

業務改善助成金の助成対象

業務改善助成金の対象となる事業者、経費の範囲は以下のとおりです。

【業務改善助成金の対象となる企業】

  • 中小企業または小規模事業者
  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
  • 解雇などの不交付事由に該当しない

【業務改善助成金の対象となる経費】

業務改善助成金の対象となる経費は生産性の向上が見込まれる機械などです。
特例事業者に該当する場合は対象経費の範囲が拡大され、自動車やPCなどについても助成対象となります。

業務改善助成金の対象となる経費一般事業者特例事業者
生産性向上・労働能率の増進に資する設備など
(POSレジ、リフト付き送迎車両、業務見直しのための専門家費用など)
〇(対象)〇(対象)
生産性向上設備のうち、
・自動車(定員7名以下または本体価格200万円以下)
・PC、タブレットなどの端末と周辺機器
×(対象外)〇(対象)

対象とならない経費は、単なるコストダウンや職場環境の快適化のための設備などです。例えば、電気代削減のためのLED照明への切り替えなどは対象外です。

業務改善助成金の対象とならない経費の例

  • 電気代削減のためのLED電球への切り替え
  • 執務室の拡大机・椅子などの増設
  • 事務所の家賃など通常の経費
  • 交付決定日よりも前に購入したもの
  • 法令で設置義務があるが未設置のものなど

【引用】業務改善助成金交付要領|厚生労働省
【引用】業務改善助成金申請マニュアル|厚生労働省

業務改善助成金を受給するメリット

「助成金は要件が細かくてわからない」「申請書類が多くて大変そう」と思っている経営者の方も多いでしょう。

業務改善助成金は、今後も続くと予測されている人手不足と人件費の上昇に対して、長期的に効果を発揮する生産性の向上を支援する助成金です。
申請書類の作成はさほど煩雑ではないため、積極的に申請に取り組んでみましょう。
業務改善助成金を受給する主なメリットは次のとおりです。

業務改善助成金を受給する主なメリット

  • 賃上げ対策の投資に必要な資金をもらえる
  • 生産性の向上につながる
  • 生産性を向上させるための専門家によるコンサルティング費用も助成される
  • 事業場ごとに申請できる

なお県や市区町村などによっては、業務改善助成金の自己負担部分についてさらに助成する独自の制度を設けていることがあるため、確認してみましょう。

業務改善助成金の申請方法

業務改善助成金を申請し受給するまでには7つのSTEPがあります。

業務改善助成金を受給するまでの7STEP

STEP1 交付申請書・事業実施計画書の作成
STEP2 交付申請
STEP3 労働局の審査と交付決定通知
STEP4 計画の実施
STEP5 事業実施報告と支給申請
STEP6 助成額の確定と助成金の受給

【引用】業務改善助成金交付要領|厚生労働省
【引用】業務改善助成金申請マニュアル|厚生労働省

STEP1 交付申請書・事業実施計画書の作成

交付申請書、事業実施計画書などを作成します。
交付申請書は賃金引き上げの概要などを記載します。申請は事業場ごとにおこないます。
事業実施計画書には設備投資の内容など具体的な取り組みを記載します。

STEP2 交付申請

事業場内最低賃金の引き上げ内容を記載した交付申請書、事業実施計画書などを、添付書類とともに都道府県労働局に提出します。

交付申請時に提出する書類は以下のとおりです。

  • 交付申請書(様式第1号)
  • 国庫補助金所要額調書(様式第1号の別紙1)
  • 事業実施計画書(様式第1号の別紙2)
  • 助成対象経費の見積書(契約予定金額が10万円以上(税抜)の場合は2社以上が必要)
  • 申請前3か月分の賃金台帳の写し
    (申請前の時間給または時間換算額が、引き上げ後の事業場内最低賃金に満たない従業員のもの)
  • そのほか参考となる書類

(生産性要件を満たしている場合)

  • 生産性要件算定シート(法人格などによって異なります)
  • 生産性要件算定シート記載事項の証拠書類(損益計算書、総勘定元帳など)
  • (生産性の伸び率が1%以上6%未満の場合)与信取引等に関する情報提供にかかる承諾書

(特例事業者(物価高騰等要件)に該当している場合)

  • 物価高騰等要件にかかる事業活動の状況に関する申出書
    (別添1-1売上総利益率で計算する場合と別添1-2売上高営業利益率で計算する場合とで様式が異なります)
  • 申出書のA欄からC欄を証する書類(月次損益計算書、試算表など)

STEP3 労働局の審査と交付決定通知

申請を受けた都道府県の労働局が申請内容を審査します。
審査の結果、内容が適正と認められた場合は、助成金の交付決定通知が届き、審査に通過しなかった場合は不交付決定通知が届きます。

STEP4 計画の実施

交付決定通知が出たら、計画通りに賃上げや設備投資の契約などをおこないます。
計画を実施するときの注意点は次の3つです。

  • 賃上げの開始は交付申請書の到着日以降
    事業場内最低賃金の引き上げは、提出した申請書が労働局へ到着した日から事業完了期限(2025年1月31日)までの間、どの時期に実施しても問題ありません。
    申請書の到着後であれば、交付決定前に引き上げをおこなっても対象となります。
  • 機械などの購入時期は交付決定日以降
    機械の購入などは交付決定が下りてからの購入のみが認められ、交付決定前に購入した機械などは助成されません。
  • 機械などの支払期限
    機械などを購入した際は、原則、振込によって支払います。
    クレジットカードや約束手形による支払は、その決済が事業完了期限内であることが必要です。

STEP5 事業実施報告と支給申請

機械の購入や事業場内最低賃金の引き上げを実施後に、実施結果の報告と助成金の支給を都道府県の労働局へ申請します。
申請期限は実施後1か月以内または翌年度4月10日のいずれか早い日までです。

支給申請時に提出する書類は次のとおりです。

  • 支給申請書(様式第10号)
  • 事業実績報告書(様式第9号)
  • 国庫補助金精算書(様式第9号の別紙1)
  • 事業実施結果報告(様式第9号の別紙2)
  • 事業場内最低賃金の引き上げ対象である従業員の引き上げ前と引き上げ後の賃金台帳の写し
  • 改正後の就業規則の写し
  • 購入した機械などの納品書、写真など
  • (教育訓練の場合)実施日時、実施場所、実施内容が明らかとなる書類
  • 請求書の写し
  • 領収書の写し
  • 振込の写し(預金通帳など)
  • 消費税および地方消費税にかかる仕入控除税額が確定する時期

STEP6 助成額の確定と助成金の受給

内容が適正と認められた場合、助成金額の確定通知が届きます。
助成金は支給申請書に記載した預金口座へ振り込まれます。

交付申請書・事業実施計画書を作成するときのポイント

交付申請書の作成はそれほど難しくありません。作成時に注意するポイントは次のとおりです。

  • 申請する事業場が本店以外の場合は、企業名の後に事業場名を記入
  • 免税事業者、簡易課税事業者などの場合は経費を税込で記載可能
  • 免税事業者、簡易課税事業者などの場合は、消費税額の確定に伴う報告書が必要

【参考】業務改善助成金 交付申請書等の書き方と留意事項について|厚生労働省[AF7] 

事業実施計画書を作成するときのポイントは次のとおりです。

  • 事業実施計画書の3助成事業の概要(1)ア常時使用する労働者
    事業場内最低賃金の引き上げ対象となる従業員以外の全員を記入します。
  • 事業実施計画書の3助成事業の概要(2)事業実施計画の必要性、内容および実施方法
    生産性の向上や労働能率の増進など、現状の問題点や所要時間、投資後の改善効果などをコンパクトにまとめて記入します。
    記載例のとおり、投資前と投資後の所要時間の比較などをわかりやすく記入しましょう。

【引用】業務改善助成金 交付申請書等の書き方と留意事項について|厚生労働省

業務改善助成金(令和6年度版)の改正点

業務改善助成金は2024年4月1日から取り扱いが一部改正されているため注意が必要です。

同一事業場での申請は年1回のみ

1年度内において複数回の事業内最低賃金の引き上げによる達成が対象外となりました。例えば30円コース(30円引き上げ)を10円引き上げと20円引き上げの2回に分ける計画は対象外となります。
これに伴い申請においても、1事業所について年度内1回までとなっています。

【引用】令和6年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ|厚生労働省

完了期限は2025年(令和7年)1月31日まで

業務改善助成金(令和6年度版)の申請期限と完了期限は次のとおりです。

  • 申請期限 2024年(令和6年)12月27日
  • 完了期限 2025年(令和7年)1月31日

完了期限とは、助成金対象の機械の納品、その支払(振込または引落)、賃上げ実施のいずれか遅い日です。完了期限までに機械などの納品・支払・賃上げのすべてを終える必要があります。
機械の納入が遅れるなどのやむを得ない事情がある場合、事前に申請することで完了期限を2025年3月31日までに延長してもらえる可能性があります。

業務改善助成金の受給後の手続き

助成金の支給後、申請した計画の実施についての報告が必要です。
実施後の報告時に提出する書類は次のとおりです。

  • 状況報告(様式第8号)
  • (従業員の解雇があった場合)従業員の賃金台帳の写し
  • 賃上げした従業員の賃金台帳の写し

状況報告の提出期限は、事業場内最低賃金を引き上げ、実績報告手続きをおこなった日の前日、または事業場内最低賃金を引き上げてから6か月以内のいずれか遅い日から起算して1か月以内です。

なお免税事業者などで助成金額を税込金額で受給した場合は、『消費税および地方消費税にかかる仕入控除税額報告書(様式第 12 号)』を提出し、仕入税額控除に使われた額を返還する必要があります。

【参考】業務改善助成金 仕入税額控除マニュアル|厚生労働省

事業計画の変更・中止・遅れの場合の手続き

交付決定後に賃上げや設備投資をおこなう予定を変更する場合、あるいは中止する場合についても申請手続きが必要です。

事業計画の変更

交付決定後に実施する内容を変更する場合は、事前に事業計画の変更を申請し、承認を受ける必要があります。

計画を変更する場合の申請書類は以下のとおりです。

  • 事業計画変更申請書(様式第3号)
  • 国庫補助金所要額変更調書(様式第3号の別紙)
  • 事業変更計画書
  • そのほか参考となる資料

事業計画の中止

交付決定後に事業場内最低賃金の引き上げを実施できないなど、計画を中止する場合についても申請が必要です。

計画を中止する場合における申請書類は以下のとおりです。

  • 事業廃止承認申請書(様式第5号)

事業計画が遅れる場合

助成金の対象である機械の納品が間に合わないなどの場合は、事前に理由書とともに申請することで、完了期限が2025年3月31日まで延長される可能性があります。

厚生労働省による例示は次のとおりです。

  • 納入業者の都合により、機械などの納入が令和7年1月31日以降となる場合
  • 納入業者の都合により、機械などの納入が最短でも令和7年1月31日であるため支払日が令和7年2月1日以降となる場合

まとめ

業務改善助成金は補助率の上限が9/10と高いため、生産性向上のための設備投資を低コストで導入することができる助成金です。
人手不足と人件費の上昇が続くと予測されている中、今後の人件費上昇をカバーし、従業員の定着率を向上させるための投資については、業務改善助成金の活用がおすすめです。
申請要件が細かく定められているため、申請する際は、漏れや誤りがないよう注意深く作成しましょう。

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