企業の状態を客観的に判断する方法として、格付診断と呼ばれる制度が利用されています。金融機関などで採用されている判断方法で、いくつかの基準によって財務情報や定性情報を分析したものです。金融機関などが融資を実施する際は、格付診断の結果を参照して、企業の状態を評価します。大まかな基準は国から示されているなど、信頼性の高いものであることが特徴です。
融資を受ける際などに重要な情報ではありますが、自社の格付診断について把握できている人は少ないのではないでしょうか。診断結果は評価する事業者によって少々異なりますが、評価基準は概ね固定されているため、自分自身で診断できるテンプレートを紹介します。
目次
格付け診断は金融機関が主に利用
格付け診断は主に金融機関が利用する制度です。概要と格付診断を実施している事業者について簡単に解説します。
一般的な格付け診断の方法
金融機関が決算書を利用して、格付け診断していることはご存じの方が多いでしょう。この格付診断は「CRD」と呼ばれる診断システムが利用されることが多くなっています。CRDとは「Credit Risk Database」の頭文字をとったもので、一般社団法人CRD協会が提供している仕組みです。日本中の中小企業について経営に関する幅広い情報を集めたデータベースで、信用保証協会や民間金融機関、政府系金融機関などが利用しています。
CRDを含めて、どの格付け診断もいくつかの観点から決算書を点数化して、10段階から12段階ほどのランクに分類する方法です。観点と数値化の具体的な紐づけは明確になっていませんが、概ねの観点はCRDを含めて公開されています。そのため、格付診断テンプレートとしてこれを利用すれば、大まかな自社の状況を把握することが可能です。
格付け診断のできる事業者
基準に則って、決算書などを分析すれば、経営者が自分自身で格付診断できます。また、税理士など専門的な知識を有する事業者へ依頼することでも、格付け診断を実施してもらうことも可能です。ただし、一般的に金融機関が利用している格付け診断はこのような事業者が実施したものではなく「信用格付業者」と呼ばれる事業者が実施したものを利用します。具体的には以下の事業者です。
- 株式会社日本格付研究所
- ムーディーズ・ジャパン株式会社
- ムーディーズSFジャパン株式会社
- S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社
- 株式会社格付投資情報センター
- フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社
- S&PグローバルSFジャパン株式会社
これらの事業者は、独自に評価基準を持っているため、自分自身で診断した結果や税理士などに診断してもらった結果と一致するとは限りません。場合によっては、大きな乖離が生じることも考えられます。融資を受ける際の格付け診断は、特別な事業者が対応していることを把握できていると良いでしょう。
格付診断で注目される主な観点
格付け診断は、主に財務情報と定性情報を分析することで実施されます。それぞれどのような観点で分析や評価されているのか理解しておきましょう。
財務情報分析
財務情報分析は、決算書から客観的に数値化しやすいものを指し、以下の4つの要素からそれぞれ評価されます。
- 安全性:倒産危機の有無
- 収益性:利益を獲得する能力
- 成長性:将来的に期待できるか
- 返済能力:借入金を返済できる体制があるか
決算書の内容からいくつもの指標を計算し、それらに重み付けをつけて格付診断する仕組みです。例えば、収益性として利益率を算出するなどが考えられます。
定性情報分析
定性情報分析は、決算書の内容だけでは客観的に数値化できないものを指し、例えば以下4つの要素からそれぞれ評価されます。
- ファンダメンタルズ:業界における地位や社歴、経理組織の状況など
- トップマネジメント:社長の在籍年数や意思決定の方法、健康度合いなど
- 経営基盤:接客の態度やモラル、給与形態や社内の統制度合いなど
- マーケティング:主力商品の販売数や取引先の種類や状況など
これらの情報は状態が「良い」「悪い」と客観的に評価することが難しいでしょう。例えば「社長の在籍年数は◯年が良い」とは言い切れません。このような客観的な判断が難しい部分を分析する作業が、定性情報分析です。
格付診断の結果を有利なものにするポイント
これから融資を考えている場合などは、格付け診断の結果をより良いものにしたいと考えるでしょう。その場合は、以下のポイントを考慮するようにしてください。
財務改善
最も重要な作業は、財務状況を改善することです。格付け診断は、財務情報の分析結果が半分以上を占めると考えられているため、最初に財務状況を魅力的なものにする作業が求められます。例えば、金融機関からの借入額が多く毎月の返済がキャッシュフローを圧迫しているならば、事前にその状況を改善するなどが考えられます。
また、根本的に利益を確保するための活動も非常に重要です。例えば、不要な資産や在庫を売却するなどして、整理しておくことが考えられます。これらの整理と合わせて、見やすい決算書を作成することも求められます。
事業計画書の作成
事業計画書を作成し、格付診断の判断資料としてもらいましょう。特に、金融機関が格付診断する場合は事業計画書の有無が必要に重要です。
例えば、事業計画書を作成しておくことで、一時的な赤字決算による格付の低下を回避しやすくなります。決算書や紹介するテンプレートだけで評価すると、どうしても赤字はマイナスの要素になりがちです。しかし、事業計画に沿ったものであれば、これを回避しやすくなります。
また、定性情報分析の際にも事業計画書が役に立つ可能性があります。例えば、自社のビジネスモデルについて強みを記載すれば、評価してもらえるかもしれません。
資金繰りの見直し
経営者として、決算書や関連する書類の内容に丁寧に目を通し、資金繰りを中心に問題点を見つけたり改善したりしましょう。例えば、資金繰り表を作成して現金の不足が予想されたならば、事前に融資を相談するなどしておきます。
一般的に、資金繰りの悪化が予想される状態では、格付診断の評価は下がってしまいがちです。経営者として事前に把握できている部分があれば、問題を回避する方向に動いていきましょう。
定性情報の正確な把握
格付診断は決算書を軸に進められますが、定性情報の分析も含まれます。そのため、定性情報についても正確に把握して、格付診断にプラスの影響を与えられるようにしましょう。テンプレートを活用して情報を把握するようにします。
例えば、業界の動向と自社の立ち位置との関係は決算書だけでは不明確となります。また、自社の強みがどのように評価されているかも決算書では伝わらないでしょう。これらについて正確に把握し、エビデンスとともに示せるようにしておきます。
【無料】格付診断テンプレート・サービス
格付診断テンプレートのダウンロードや診断できるサービスを紹介します。
F&M Club
F&M Clubは株式会社エフアンドエムが提供する中小企業の財務、労務管理、人材採用・育成など経営やバックオフィス業務の支援サービスで、累計38,000社以上の中小企業を支援した実績があります。
F&M Clubの無料会員サイトでは、格付診断テンプレートはもちろん、財務や労務など企業で必要とされるテンプレートが数多く公開されています。
また、ウェビナーの見逃し配信なども数多く公開されているため、ぜひこの機会に無料会員登録してはいかがでしょうか。
登録不要で今すぐダウンロード
経営自己診断システム
経営自己診断システムは、中小機構が提供する中小企業向けの経営診断システムです。
豊富な財務データが収録されていて、それらと自社の状況を比較する形で評価してもらえます。
決算書の財務情報を入力するだけで、簡単に分析結果を表示でき、登録も不要など利便性の高いものです。
経済産業省
経済産業省からは「ローカルベンチマーク(ロカベン)シート」が提供されています。
厳密には格付診断テンプレートとは異なりますが、本質的には同じであり、個別企業の経営状態を把握するためのツールです。
まとめ
金融機関から融資を受ける際などに格付診断が利用されます。
その時に備え、自分で格付診断するためには、格付診断テンプレートを利用しましょう。
評価項目や基準については厳密な定義がないため、テンプレートの内容から把握することをおすすめします。