キャリアアップ助成金の審査は厳しい?申請のポイント7つを解説

キャリアアップ助成金の審査は厳しいといわれています。助成金をもらえるか気になる経営者も多いでしょう。
キャリアアップ助成金の審査が厳しいといわれる主な理由は、要件が細かく定められている、提出書類が多い、書類間で高い整合性が問われる、の3つです。換言すれば、適切な労務管理と書類整備をおこなっている企業は、審査が通りやすくなるといえます。
今回は、キャリアアップ助成金を申請するときに大切な7つのポイントについて解説します。

自社で使える助成金・補助金・優遇制度が分かる

キャリアアップ助成金(2024年度版)は大きく2種類、全部で6種類

キャリアアップ助成金とは、有期雇用など非正規雇用労働者を正規雇用労働者へ転換する企業、非正規労働者の賃金上げや退職金制度の整備などの処遇改善に取り組む企業が対象となる助成金です。法人だけでなく、個人事業主についても補助対象となります。
キャリアアップ助成金を活用することで、人材の定着や賃上げに必要となる費用の一部が助成されるため、労働者・企業の双方にメリットがあります。

キャリアアップ助成金を大きく分けると、正社員への転換を支援する「正社員化支援枠」、賃上げや退職金制度の整備を支援する「処遇改善支援枠」の2つがあります。
助成額は中小企業と大企業(中小企業の規模を超える企業)、取り組み内容などに応じて異なります。
キャリアアップ助成金の概要は以下のとおりです。


【参考】キャリアアップ助成金のご案内(2024年度版)|厚生労働省
【参考】キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)のご案内(2024年度版)|厚生労働省

正社員化支援枠2コースの概要

キャリアアップ助成金の正社員化支援枠は、非正規雇用労働者を正規雇用労働者へ転換したとき、または障害者を正規雇用労働者として採用したときに助成されます。
正社員化支援枠は、さらに2つのコースに分かれます。

  • 正社員化コース
    6か月間以上雇用している非正規雇用労働者を正規雇用労働者へ転換するときに助成されます。
    正社員化コースの助成額(中小企業の場合)は、対象労働者1名あたり40万円(無期雇用労働者からの転換)または80万円(有期雇用労働者からの転換)です。
    さらに派遣社員を正規雇用するなど一定の条件を満たす場合の加算措置があります。
助成額中小企業1名あたり40万円(20万円×2期(6か月))
または80万円(40万円×2期)
大企業1名あたり30万円(15万円×2期)
または60万円(30万円×2期)
助成上限額1年度につき1事業所あたり20名まで
加算措置1名あたり4万7,500円から28万5,000円
1事業所あたり1回のみ20万円または40万円
  • 障害者正社員化コース
    障害のある非正規雇用労働者を正社員または無期雇用労働者へ転換するときに助成されます。
助成額中小企業1名あたり45万円(22万5,000円×2期) から120万円(60万円×2期)
大企業1名あたり33万円(16万5,000円×2期) から90万円(45万円×2期)
支給対象期間1年間

処遇改善支援枠4コースの概要

処遇改善支援枠は、非正規雇用労働者の賃上げや賞与・退職金制度の整備、社会保険加入時における手取り減少の補填など待遇改善をおこなう企業への助成制度です。
処遇内容に応じて以下の4つのコースがあります。

  • 賃金規定等改定コース
    有期雇用労働者などの基本給の賃金規定を3%以上増額し、実際に引き上げた場合に助成されます。賃上げ幅に応じて助成額が変わります。
    また職務評価手法を導入した賃金増額改定をおこなう場合の加算措置があります。
助成額中小企業1名あたり5万円(3%以上)
または6万5,000円(3%以上)
大企業1名あたり3万3,000円(3%以上)
または4万3,000円(3%以上)
助成上限額1年度につき1事業所あたり100名まで
加算措置中小企業1事業所あたり1回限り20万円
大企業1事業所あたり1回限り15万円
  • 賃金規定等共通化コース
    すべての有期雇用労働者に正規雇用労働者との共通の賃金規定などを新たに規定し、実際に適用した場合に助成されます。
    助成額は1事業所あたり1回限り60万円(大企業は45万円)です。
助成額中小企業1事業所あたり1回限り60万円
大企業1事業所あたり1回限り45万円
  • 賞与・退職金制度導入コース
    有期雇用労働者などの非正規雇用労働者を対象に賞与・退職金制度を新たに導入し、支給または積立を開始したときに助成されます。
    支給額は1事業所あたり1回限り40万円または56万8,000円(大企業の場合、30万円または42万6,000円)です。
助成額中小企業賞与または退職金制度の
いずれか
1事業所あたり1回限り
40万円
賞与および退職金制度を
同時に導入
1事業所あたり1回限り
56万8,000円
大企業賞与または退職金制度の
いずれか
1事業所あたり1回限り
30万円
賞与および退職金制度を
同時に導入
1事業所あたり1回限り
42万6,000円
  • 社会保険適用時処遇改善コース
    短時間労働者が新たに社会保険被保険者となった際におこなう手当支給・賃上げ・労働時間延長などが助成対象です。
    本コースのみ、2026年3月31日までの取り扱いです。
    企業のおける取り組み内容に応じて、『手当等支給メニュー』『労働時間延長メニュー』『併用メニュー』があり、助成は同一労働者について1コースのみとなります。
手当等支給
メニュー
1年目および2年目3年目
社会保険料相当額の手当支給
または賃上げ
基本給の総支給額を18%以上増額
中小企業1名あたり40万円
(10万円×4期)
1名あたり10万円
大企業1名あたり30万円
(7万5,000円×4期)
1名あたり7万5,000円
労働時間延長
メニュー
1時間以上
2時間未満
2時間以上
3時間未満
3時間以上
4時間未満
4時間以上
基本給の賃上げ
15%以上
基本給の賃上げ
10%以上
基本給の賃上げ
5%以上
中小企業1名あたり
30万円
1名あたり
30万円
1名あたり
30万円
1名あたり
30万円
大企業1名あたり
22万5,000円
1名あたり
22万5,000円
1名あたり
22万5,000円
1名あたり
22万5,000円

併用メニューは、社会保険加入後、1年目に手当等支給メニュー、2年目に労働時間延長メニューの取り組みをおこなった場合、それぞれの額が助成されます。

キャリアアップ助成金を受給するまでの主な流れ

キャリアアップ助成金を受給するまでの主な手続きは次のとおりです。
STEP1 キャリアアップ計画の策定
STEP2 キャリアップ計画書の提出
STEP3 就業規則・労働条件通知書などの改定、キャリアアップ計画の実施
STEP4 支給申請

STEP1 キャリアアップ計画の策定

キャリアアップ計画とは、非正規雇用労働者のキャリアアップを進めるために企業が取り組む内容、対象となる労働者などを定めた計画書のことです。
キャリアアップ計画書は全4枚と簡素であり、計画書の作成自体は難しくありません。
キャリアアップ計画を策定するために、以下4つをおこないます。

キャリアアップ計画の策定方法
  • 事業所ごとにキャリアアップ管理者を選定する
  • 対象となる労働者、キャリアアップのために取り組む内容などを決定する
  • キャリアアップ計画について、非正規雇用労働者を含むすべての労働者の代表から意見を聴取する
  • 3年から5年以内のキャリアアップ計画書としてまとめる

キャリアアップ計画書の様式は、厚生労働省のホームページに掲載されています。

【参考】申請様式ダウンロード(キャリアアップ助成金)(2024年4月1日以降の取組にかかる様式)|厚生労働省

STEP2 キャリアアップ計画書の提出

作成したキャリアアップ計画書を、事業所を管轄する都道府県労働局またはハローワークへ提出します。都道府県によって提出先が異なるため事前に確認しましょう。

提出方法は書面提出のほか、電子申請が可能です。支給申請を電子申請でおこなう場合はキャリアップ計画書についても電子申請しておく必要があるため注意が必要です。

キャリアアップ計画書の提出期限は、正規雇用労働者への転換などを実施する日の前日です。計画書に不備がある場合は修正が必要となるため、早めに提出しましょう。

STEP3 就業規則などの改定と計画の実施

就業規則の改定は、キャリアアップ助成金の申請手続きにおいて最も重要となります。
キャリアアップ計画に基づいて、就業規則や賃金規定などへ正規雇用労働者への転換規定などを盛り込みます。
就業規則などの改定時に注意しておくポイントは次のとおりです。

就業規則などの改定時に注意しておくポイント
  • 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の区分の定義
  • 非正規雇用労働者から正規雇用労働者への転換の基準と手続き、転換時期など
  • 昇給や賞与などの支給基準、賞与を支給しない場合の文言など
  • 諸手当の名称、支給額、支給基準など
  • 有期雇用労働者の契約期間

就業規則の改定後は、所轄の労働基準監督署に届け出をおこないます。改定した就業規則は社内で周知します。

就業規則の改定と同時に重要となる書類が労働条件通知書です。
労働条件通知書は、労働条件を変更した都度に作成する必要があります。就業規則の改定と労働条件通知の更新はセットで忘れずにおこないましょう。

就業規則の改定などが終わった後、正規雇用労働者への転換などを実施します。

STEP4 支給申請

支給申請の期限は、正規雇用労働者への転換などの取り組みを実施後、6か月間雇用を継続し賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内です。
キャリアアップ助成金を支給申請する申請書の様式は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
支給申請時は賃金台帳など多くの添付書類が必要となります。期限内に申請できるよう、事前に準備しておきましょう。

支給申請後、申請を受けた労働局が審査をおこないます。審査の過程で追加の資料や説明を求められるケースがあるため、迅速に対応できるように準備しておきます。

【参考】申請様式ダウンロード(キャリアアップ助成金)(2024年4月1日以降の取組にかかる様式)|厚生労働省

STEP5 支給決定・受給

審査に通過すると支給が決定され、指定の口座に助成金が振り込まれます。
支給申請から支給決定までの審査期間はおよそ2か月間から6か月間といわれています。

キャリアアップ助成金が不支給!?厳しい審査を乗り越える7つのポイント

キャリアアップ助成金の審査においては、就業規則や賃金台帳など多くの書類が精査され、審査過程において、書類間の不整合、書類と実態の不一致、残業代の計算ミスなどが発生すると助成金は不支給となってしまいます。

キャリアアップ助成金の厳しい審査を通過するために重要となる「7つのポイント」について紹介します。

改正情報の確認

キャリアアップ助成金は改正が重ねられています。自社が取り組む年度や申請年度により様式や取り扱いが異なる場合があるため、事前に支給要領を確認しましょう。
キャリアアップ助成金に関する最近の改正としては下記の例があげられます。

  • 賃金増額3%以上の計算における賞与の除外(2021年4月1日から)
  • 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の定義の変更(2022年10月1日から)
  • 生産性要件の廃止(2023年3月31日)

キャリアアップ計画書の作成・運用

キャリアアップ計画書は作成後、取り組み内容を実施する前に労働局へ提出します。

キャリアアップ計画書を作成後に、取り組み内容(コース)などを変更する場合、「キャリアアップ計画書(変更届)」の提出が必要です。
支給申請時に実施した内容とキャリアアップ計画が異なると、助成金を受給できない可能性があります。

就業規則の改正

キャリアアップ助成金を受給するためには、従来の就業規則へ正規雇用労働者への転換規定を盛り込むなど、さまざまな見直しが必要です。就業規則が適正でない場合は助成金をもらうことができなくなってしまいます。
また就業規則だけでなく、労働条件通知書や出勤簿、賃金台帳などが整合していることが審査されるため、不安を感じる場合は専門家のアドバイスを受けることがおすすめです。

就業規則は正社員と非正規社員の違いを明確に定義

就業規則において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の定義、待遇の違いなどが明確に定義されているか確認しましょう。キャリアアップ助成金における両者の違いは、次のとおりとされています。
なお正規雇用労働者と非正規雇用労働者の明確な違いを設けるときは、同一労働・同一賃金の原則に違反しないように注意しましょう。

正社員同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者。ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る。
非正規雇用労働者賃金の額または計算方法が「正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則」などの適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者
【引用】キャリアアップ助成金のご案内(2024年度版)|厚生労働省

申請期限を厳守

キャリアアップ助成金の申請期限は、取り組みの実施後、6ヵ月間の賃金支払いをおこなった日の翌日から2ヵ月以内であり、この申請期限までに申請しないと受給できません。
受給申請時は支給申請書に加えて、就業規則、賃金台帳、タイムカードなど多くの資料を添付することとなるため、計画的に準備しましょう。

労働基準法違反、会社都合退職に注意

支給申請日の前日から過去1年間に労働関係の法律に違反した企業はキャリアアップ助成金を受給できません。

また正社員化コースであれば、『正社員化した日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該正社員化をおこなった適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇など事業主の都合により離職させていない』ことが受給条件となっています。

キャリアアップ助成金だけでなく、厚生労働省が管轄する雇用関係助成金は、解雇または会社都合による離職が発生していないことが支給条件となっていることが多くみられます。
企業の業績悪化に伴う解雇や問題社員の解雇などがある場合は、専門家に相談しながら進めましょう。

賃金増額3%要件はツールで事前にシミュレーション

正社員化コースについては、正社員への転換前6ヵ月間と転換後6ヵ月間の賃金を比較し、転換後の賃金を3%以上増額することが条件となっています。
2021年4月1日以降の賃金増額の計算は、賃金総額に賞与や一部の手当(通勤手当、住宅手当、歩合給、休日手当、時間外労働手当、賞与など)を含まないことに変更されています。

具体的な金額は、厚生労働省がホームページ上で提供している『賃金上昇要件確認ツール』を使用して計算しましょう。

【引用】キャリアアップ助成金のご案内(2024年度版)|厚生労働省

まとめ

キャリアアップ助成金は審査が厳しいといわれていますが、適切な事前準備と労務管理をおこなうことで審査が通りやすくなります。
就業規則の改定などは専門的な知識が求められるため、社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けながらキャリアアップ助成金の申請に取り組んでみましょう。

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