「新規事業に挑戦したいけれども資金面が不安……」という悩みを抱える事業者も多いでしょう。資金面に不安を抱える中小企業や個人事業主にとって心強い制度が、2025年に始まった「新事業進出補助金」です。最大9,000万円の補助を受けられるため、自己資金だけではできなかった大きな事業投資をおこなって新規事業を効率的に運営できます。
本記事では、新事業進出補助金の申請方法を中心に制度の概要から採択のポイントまでわかりやすく解説します。本記事を読めば、新事業進出補助金の申請方法を理解してスムーズに受給できるでしょう。新事業進出補助金を活用し、新規事業を拡大して長期的な経営の安定につなげてください。
助成金申請、労務トラブル、資金繰り改善
目次
新事業進出補助金とは2025年に創設された中小企業向けの新たな補助金制度

「新事業進出補助金」は、2025年に新たに創設された中小企業向けの補助金制度です。新事業進出補助金は、中小企業が既存の事業とは異なる新たな市場や高付加価値事業への進出の支援を目的としています。具体的には、新規事業への挑戦に伴う設備投資や販路開拓などにかかる費用の一部を補助して企業の成長・拡大を促進します。
新事業進出補助金の補助対象経費における補助率は1/2で、補助上限額は従業員数に応じて最大9,000万円です。また、補助事業期間は交付決定日から14か月以内(ただし採択発表日から16か月以内)と定められています。
新事業進出補助金の対象者
「新事業進出補助金」の対象者は、日本国内に本社および補助事業実施場所を有する中小企業などです。具体的には、以下の要件を満たす事業者が新事業進出補助金の対象となります。
中小企業者 | 業種ごとに資本金・従業員数の上限あり(例:製造業は資本金3億円以下かつ従業員300人以下) |
中小企業者以外の法人 | 協同組合、一般社団法人・財団法人、農事組合法人など(従業員300人以下) |
特定事業者 | 資本金10億円未満かつ一定の従業員数以下(業種により異なる) |
対象リース会社 | 中小企業が導入する設備等に関し、リース料から補助金分を控除する方式での申請が可能 |
なお、従業員が0名の事業者や政治団体・宗教法人・みなし大企業などは補助対象外です。
新事業進出補助金の基本要件
「新事業進出補助金」を申請するにあたり、以下の基本要件を満たす必要があります。
- 既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出であり、「新事業進出指針」に示す定義に該当する
- 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(または従業員一人あたり付加価値額)の年平均成長率が4.0%以上増加する見込みの事業計画を策定する
- 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかの水準以上の賃上げをおこなう
・一人あたり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上増加させる
・給与支給総額の年平均成長率を2.5%以上増加させる - 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業所内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準である
- 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している
- 補助事業の実施にあたって金融機関などから資金提供を受ける場合は、資金提供元から事業計画の確認を受けている
特に、付加価値額や賃上げに関する要件は未達成の場合に補助金の返還義務が生じるため、事業計画の策定時に十分な注意が必要です。
新事業進出補助金の補助上限額・補助率
「新事業進出補助金」の補助上限額および補助率は、以下の通りです。
補助率 | 1/2 | |
補助上限額 | 従業員数20人以下 | 2,500万円(3,000万円) |
従業員数21~50人 | 4,000万円(5,000万円) | |
従業員数51~100人 | 5,500万円(7,000万円) | |
従業員数101人以上 | 7,000万円(9,000万円) |
※()内は大幅賃上げ特例適用時
※補助下限額は750万円となっており、最低でも1,500万円以上の投資が必要
新事業進出補助金の補助対象経費
「新事業進出補助金」の補助対象経費は、以下の通りです。
経費区分 | 内容 |
機械装置・システム構築費 | 製造設備、検査機器、専用ソフトなどの購入・構築にかかる費用 |
建物費 | 新規事業のための建物の新築・改修費(賃貸や購入は対象外) |
運搬費 | 設備や製品などの運搬にかかる費用 |
技術導入費 | 知的財産権の導入や技術指導のための費用 |
外注費 | 製品やサービスの設計・加工・検査などの外部委託費(全体の10%上限) |
専門家経費 | 外部専門家からの助言・指導にかかる費用(上限100万円) |
クラウドサービス利用費 | 補助事業専用で利用するクラウドサービスなど |
新事業進出補助金の応募・申請から補助金受給までの流れ・ステップ
新事業進出補助金の応募・申請から補助金受給までの流れ・ステップは、以下の通りです。
上記の手順を参考に、新事業進出補助金の申請手続きをスムーズに進めましょう。
①補助金情報の確認
新事業進出補助金の申請を検討する際、まずは制度の詳細を正確に把握することが重要です。公式サイトや公募要領を通じて、補助金の対象者・補助率・補助上限額・補助対象経費・申請スケジュールなどを確認しましょう。
また、補助金の申請には「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要であり、郵送申請では1週間程度の時間を要します。新事業進出補助金の情報を正確に把握し、GビズIDプライムアカウントなどの事前に用意すべきものは早めに準備しましょう。
②事業計画の検討
新事業進出補助金の申請には、明確で実現可能な事業計画の策定が求められます。事業計画には、既存事業の概要・新規事業の内容・市場分析・収益計画・実施体制・資金調達計画・スケジュールなどを詳細に記載する必要があります。
特に、新規事業が「新市場」または「高付加価値事業」に該当する点を明確に示すことが重要です。市場の新規性については、既存事業とは異なる顧客層やニーズを対象とする市場である点を説明しましょう。また、高付加価値性については同業他社と比較して高い付加価値や価格プレミアムを持つ点を示す必要があります。
③応募申請をおこなう
補助金の申請は、事業計画の策定や必要書類の準備が整った段階でおこないます。申請は、オンライン申請システム「jGrants」を通じておこなわれ、GビズIDプライムアカウントが必要です。申請書類には、事業計画書・収支計画書や補助対象経費の明細書、一般事業主行動計画の公表証明書などがあります。
また、金融機関からの資金提供を受ける場合は事業計画の確認書も必要です。申請期間は2025年6月中旬から7月10日18:00までとされており、締切厳守が求められます。
④審査の実施
申請が受理されると、提出された事業計画や書類に基づいて審査がおこなわれます。審査では主に事業の新規性や成長性、付加価値の向上、賃上げの実現可能性などが評価されます。
また、事業計画の実現可能性や市場性、収益性、リスク管理体制なども審査の対象です。審査結果は2025年10月頃に発表される予定であり、採択された事業者には交付候補者として通知されます。
⑤採択通知の受領後に交付申請をおこなう
採択通知を受けた事業者は、交付申請手続きをおこなわなければなりません。交付申請では、補助事業の具体的な実施計画やスケジュール、補助対象経費の詳細、資金調達計画などを提出します。また、補助事業の実施に必要な許認可や契約書類、見積書なども添付する必要があり、交付申請の締切は採択通知から2か月以内です。
⑥交付決定通知受領後に補助事業を実施
交付決定通知を受領した後、補助事業の実施に移ります。補助事業の実施では、交付決定通知書に記載された補助事業実施期間内に計画通りの事業を遂行する必要があります。
具体的には設備の発注・納入・設置、システムの構築、サービスの提供開始など事業計画書に基づいた活動をおこないます。また、補助対象経費については契約書や納品書、請求書、支払い証明書などの証憑を適切に保管し、後の実績報告に備えましょう。なお、補助事業の実施にあたっては事業計画書に記載された内容からの逸脱がないよう注意し、変更が生じる場合は事前に事務局の承認を得る必要があります。
⑦実績報告書を提出して補助金を受給する
補助事業が完了した後、実績報告書を提出して補助金の受給手続きが進みます。実績報告書の提出期限は、補助事業の完了日から30日以内または補助事業完了期限日のいずれか早い日までです。
実績報告書には事業の実施内容、成果、支出した経費の詳細、証憑書類などを添付して事務局に提出します。提出された実績報告書は事務局による審査を受け、補助金の交付額が確定される流れです。
審査の結果、対象経費と認められないなど補助金の交付額が減額される場合もあるため、報告内容や添付書類の整合性を十分に確認しましょう。補助金の交付額が確定した後、精算払請求書を提出すると指定口座への支払いがおこなわれます。なお、補助金の支払いまでには、実績報告書の提出から約2か月程度の期間を要するケースが一般的です。
新事業進出補助金の応募・申請スケジュール
2025年に創設された「新事業進出補助金」は現在第1回公募が開始されており、申請スケジュールは以下の通りです。
ステップ | 日程 |
公募開始 | 2025年4月22日(火) |
申請受付開始 | 2025年6月中旬(予定) |
申請締切 | 2025年7月10日(木)18:00 |
採択結果発表 | 2025年10月頃(予定) |
交付申請締切 | 採択結果発表日から2か月以内 |
補助事業実施期間 | 交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内) |
実績報告書提出締切 | 補助事業の完了日から30日以内または完了期限日のいずれか早い日 |
新事業進出補助金に応募・申請する際に準備しておきたいこと
新事業進出補助金に応募・申請する際に準備しておきたいこととして、以下の3つがあげられます。
新事業進出補助金に応募・申請する前には、上記の準備を早めに済ませておきましょう。
GビズIDプライムアカウントの作成
新事業進出補助金の申請は電子申請システム「jGrants」を通じておこなわれ、システムを利用するためには「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要です。GビズIDは事業者がさまざまな行政サービスを1つのID・パスワードで利用できる共通認証システムであり、プライムアカウントは最も権限が大きいアカウントです。
アカウントの作成には法人代表者や個人事業主が申請し、マイナンバーカードなどの本人確認書類を提出する必要があります。申請からアカウントの発行までにはある程度時間がかかるため、GビズIDの公式サイトから早めに手続きをおこないましょう。
必要書類の準備
新事業進出補助金の申請はオンラインでおこないますが、以下の書類を手続き時に添付する必要があります。
書類名 | 内容 |
決算書 | 直近2年間の貸借対照表、損益計算書(特定非営利活動法人は活動計算書)、製造原価報告書、販売管理費明細、個別注記表 |
従業員数を示す書類 | 労働基準法に基づく労働者名簿の写し |
収益事業を行っていることを説明する書類 | ・法人の場合:直近の確定申告書別表一および法人事業概況説明書の控え ・個人事業主の場合:直近の確定申告書第一表および所得税青色申告決算書の控え |
固定資産台帳 | 補助事業で取得する予定の機械装置等が、既存事業で使用している機械装置等の置き換えでないことを確認するために使用 |
賃上げ計画の表明書 | 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、賃上げ要件で設定した目標値以上の賃上げの達成を従業員等に表明していることを示すもの |
金融機関による確認書(金融機関から資金提供をいけている場合) | 事業計画書について金融機関等による確認を受けていることを示すもの |
上記の必要書類に不備があると審査に影響を及ぼす可能性があるため、十分な確認と準備が必要です。
新事業進出補助金で採択されるためのポイント
新事業進出補助金で採択されるためのポイントとして、以下の3点があげられます。
上記のポイントを意識して、新事業進出補助金の手続きを進めましょう。
審査基準・加点項目を加味して事業計画書を作成する
事業計画書を作成する際は以下の審査基準や加点項目を踏まえ、事業計画書を作成することが重要です。
区分 | 項目名 | 内容 |
審査基準 | 新市場性・高付加価値性 | 新規事業が既存事業とは異なる市場や、高い付加価値を持つ |
新規事業の有望度 | 成長性や市場展開の見込みが高い事業である | |
実現可能性 | 計画が具体的であり、実行可能な体制・スケジュールが整っている | |
補助対象事業としての適格性 | 補助金の趣旨に合致し、制度上問題のない事業である | |
加点項目 | 大幅な賃上げ計画の実施 | 給与支給総額の年平均成長率6%以上、最低賃金引き上げ50円以上を見込む計画がある |
複数事業者による連携申請 | 連携体(複数の企業・団体)が共同で申請する | |
組合などによる申請 | 企業組合、協業組合、商工組合などの組織による申請 |
上記の審査基準・加点項目に関連する内容を事業計画書に数値ベースで明確に記載すると審査員にわかりやすくなり、高評価を得やすいです。
新市場性・高付加価値性のある新規事業にする
補助対象となる新規事業は新市場性・高付加価値性のあるものにしましょう。新事業進出補助金における新市場性・高付加価値性の定義は、以下の通りです。
- 新市場性:既存事業とは異なる市場や顧客層を対象とする事業である
- 高付加価値性:同業他社と比較して高い付加価値や価格プレミアムを持つ事業である
上記の要件を満たす新規事業を計画すれば、審査において高い評価を得られます。また、新規事業が社会的課題の解決や地域経済の活性化に貢献できると示せれば、審査においてより高い評価を得やすいです。
専門家や支援機関を活用する
補助金の申請には専門的な知識や経験が必要となるため、認定経営革新等支援機関やよろず支援拠点などの公的支援機関の活用が有効です。上記の支援機関は事業計画書の作成や申請書類の作成支援をおこなっており、申請者の負担を軽減できます。
また、支援機関は補助金に関する最新情報や採択傾向などを把握しており、申請書類の作成においても有益なアドバイスを提供している点も特徴です。さらに、支援機関は補助金の申請に必要なGビズIDプライムアカウントの取得や一般事業主行動計画の策定・公表などの手続きについてもサポートをおこなっています。上記の手続きには時間がかかるため、支援機関を活用する場合は早めに相談して準備を進めましょう。
新事業進出補助金に申請する際の注意点
新事業進出補助金に申請する際の注意点として、以下の3つがあげられます。
新事業進出補助金に申請する際は、上記のポイントを忘れずに手続きを進めましょう。
申請には説明会の参加が必須
本補助金においては採択後に事務局が実施する説明会への参加が義務づけられており、不参加の場合は採択が自動的に無効となります。説明会のスケジュールは公式サイトで公開されており、参加は申請者本人がおこなわなければなりません。説明会では補助金の交付手続きや事業実施に関する重要な情報が提供されるため、必ず参加しましょう。
機械装置・システム構築費もしくは建物費のどちらかが経費に入っていなければならない
申請する補助対象経費には、「機械装置・システム構築費」または「建物費」のいずれかを必ず含める必要があります。上記の経費が含まれていない場合、新事業進出補助金の申請は受理されないため注意が必要です。また、建物費を申請する場合は補助事業のために使用される建物でなければならず、新築の場合は合理的な理由が必要となります。
交付決定前の計画変更や補助事業の実施は認められない
交付決定前に、採択された事業計画の無断変更はいかなる理由においても認められません。また、交付決定前に契約・発注・支払いをおこなった経費は新事業進出補助金の補助対象外となります。
補助金の交付決定後に事業計画の変更が必要となった場合は、事前に事務局の承認を得なければなりません。上記のルールを遵守しない場合、補助金の返還や採択の取り消しとなる可能性があるため、注意しましょう。
新事業進出補助金では「賃上げ特例」が設けられている

2025年に創設された「新事業進出補助金」では、従業員の賃上げを積極的におこなう中小企業などを支援するために「大幅賃上げ特例」が設けられています。大幅賃上げ特例を活用すれば、補助金の上限額が引き上げられてより多くの資金を新規事業に充てられます。大幅賃上げ特例を適用するためには、補助事業実施期間内に以下の2つの要件をいずれも満たさなければなりません。
- 給与支給総額の年平均成長率を6.0%以上増加させる
- 事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げる
上記の要件を達成すると、従業員数に応じて補助金の上限額が引き上げられます。例えば、従業員数が101人以上の企業は補助上限額が7,000万円ですが、特例適用で9,000万円まで引き上げられます。
まとめ
2025年に創設された「新事業進出補助金」は、中小企業などが既存とは異なる市場や高付加価値事業へ進出する取り組みを強力に後押しする制度です。申請にはGビズIDの取得や事業計画の策定、必要書類の準備が必要で注意点も多くあります。
採択の鍵は、審査基準を的確に押さえた事業計画書の作成と新市場性・高付加価値性の明確な提示です。なお、大幅な賃上げをおこなう企業には「賃上げ特例」が設けられており、補助上限額が引き上げられるメリットもあります。新事業進出補助金を活用し、自社の新規事業をスムーズに軌道に乗せて経営の安定化につなげましょう。
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